幸 –YUKI–
「……の!」
何…?何か聞こえる…。
「……きの!」
でもなんだか眠たい…。あ…仕事行かなきゃ…。あれ…?でも今日休みか…。じゃあもう少し寝てても…
「幸乃!!!!!」
「っ?!!」
耳元で聞こえた声に、はっとして目を開けた。
「な、なに?!」
パッと上体を起こして辺りを見渡せば、ベッドの横に仁王立ちでいる母と目が合った。
「え…?」
「もう!学校遅れちゃうわよ!いつまで寝てんの!」
そう言ってため息をこぼす母は私に背を向けると、扉の方へと歩き出す。
え…?ここ…私の部屋…?
辺りを見渡すと、そこは1年前まで母と父と共に暮らしていた家の自室だった。
「朝ご飯出来てるから早くしなさいよ。」
チラッとこちらを一瞥した母に、私は前のめりになりながら声を上げた。
「お母さん!」
「なによ。」
心底面倒くさそうに振り返る母は眉間にしわを寄せて私を見つめている。
「あ…の…、なんで…私ここにいるの…?」
というか、何故母もここにいるのだ。
そんな私の質問に母は、はぁ?とため息混じりに声を上げると、寄せていた眉間のしわをますます深めさせて言った。
「何言ってんの?」
「え…あ…」
「いつまで寝ぼけてるのよ。下らないこと言ってないで早く支度しなさい。遅刻するわよ。」
そう吐き捨てると、母はバタンと扉を閉めて行ってしまった。
残された部屋の中で1人。
大きく脈打つ心音だけがやけに大きく聞こえた。
どういう…こと…?
ベッドから降りてゆっくりともう一度辺りを見渡せば、やっぱり今まで住んでいた家の自室だった。
ふと、壁に掛けられたカレンダーが目に入って息を呑む。
2××5年5月
「う…そ…。4年前…?なんで…?」
昔のカレンダーなど置くわけもない。
それに、私が引っ越したのと同時に父の転勤が決まり、2人は別の所に引っ越しているはずだ。
だからこの家にいること自体がおかしいのだ。
今のこの状況が理解できずに、呆然とカレンダーを見つめた。
「早く支度しないと遅刻しちゃうよ?」
「っ?!!」
真後ろから聞こえた声に振り返れば、そこには一人暮らしの部屋で出会った少女が、怪しげな笑みを浮かべてベッドに腰掛けていた。
「あなた…」
「あなたじゃないよ!あ!自己紹介してなかった。わたしはサチ。」
サチと名乗る少女はベッドから降りると、よろしくねと口にしてから、綺麗に会釈をして微笑んだ。
「そうじゃなくて…!なんで…なんで私はここに…」
「おねーさんが言ったんじゃない。過去に戻るって。」
「は…?」
「おねーさんが戻ったのはちょうど4年前。高校を入学してから1ヵ月経った5月。今日は5月27日だよ。」
優しく笑うサチを、眉を寄せて見つめる。
訳が分からなかった。
過去に戻るなんてこと、起こるはずがない。
もしかしたら私は、夢を見ているのかもしれない。
そんな私の考えが分かったのか、サチは不敵な笑みを浮かべるとそっと小さな口を開いた。
「夢だと思ってるみたいだね。でもね、これ現実なんだよ。」
告げられた言葉に私はまた、は?と声を漏らす。
「そこに掛けてある制服を着て学校に行ってみてよ。おねーさんが見知った人達がちゃんといるから。それに、今日1日過ごせば分かるはずだよ。今が夢じゃないってこと。」
淡々と告げたサチは冷たい瞳で私を見上げると、スッと私の横を通り過ぎて扉の前で立ち止まってこちらに振り返った。
「じゃあ、後は頑張ってね。おねーさんが戻りたいって言ったんだから、それなりの学校生活を送るんだよ。」
「え?ちょっ…」
サチはそのまま扉を開けることなく突進したかと思えば、スッとそこに溶け込むように消えてしまった。
「消えた…?」
何度も瞬きを繰り返してみるが、そこには何もなく、あるのは閉まったままの扉だけ。
呆然と立ち尽くす私の視界の端で、密かに制服が揺れたような気がして目を向ける。
「学校…。」
思い返せば、母も先程学校に遅れると言っていた。
制服は確か、家を出るときに処分したはずだ。
ここにあるはずがない。
そもそも、ここにいること自体おかしい。
そうなると…私は過去に戻っているのだろうか…?
けれど、現実にこんなことが起こるはずはなくて。
そう思っていても、未だに混乱する頭では答えなど見つかる訳もなく、気付けば壁に掛かっている制服に手を伸ばしていた。
何…?何か聞こえる…。
「……きの!」
でもなんだか眠たい…。あ…仕事行かなきゃ…。あれ…?でも今日休みか…。じゃあもう少し寝てても…
「幸乃!!!!!」
「っ?!!」
耳元で聞こえた声に、はっとして目を開けた。
「な、なに?!」
パッと上体を起こして辺りを見渡せば、ベッドの横に仁王立ちでいる母と目が合った。
「え…?」
「もう!学校遅れちゃうわよ!いつまで寝てんの!」
そう言ってため息をこぼす母は私に背を向けると、扉の方へと歩き出す。
え…?ここ…私の部屋…?
辺りを見渡すと、そこは1年前まで母と父と共に暮らしていた家の自室だった。
「朝ご飯出来てるから早くしなさいよ。」
チラッとこちらを一瞥した母に、私は前のめりになりながら声を上げた。
「お母さん!」
「なによ。」
心底面倒くさそうに振り返る母は眉間にしわを寄せて私を見つめている。
「あ…の…、なんで…私ここにいるの…?」
というか、何故母もここにいるのだ。
そんな私の質問に母は、はぁ?とため息混じりに声を上げると、寄せていた眉間のしわをますます深めさせて言った。
「何言ってんの?」
「え…あ…」
「いつまで寝ぼけてるのよ。下らないこと言ってないで早く支度しなさい。遅刻するわよ。」
そう吐き捨てると、母はバタンと扉を閉めて行ってしまった。
残された部屋の中で1人。
大きく脈打つ心音だけがやけに大きく聞こえた。
どういう…こと…?
ベッドから降りてゆっくりともう一度辺りを見渡せば、やっぱり今まで住んでいた家の自室だった。
ふと、壁に掛けられたカレンダーが目に入って息を呑む。
2××5年5月
「う…そ…。4年前…?なんで…?」
昔のカレンダーなど置くわけもない。
それに、私が引っ越したのと同時に父の転勤が決まり、2人は別の所に引っ越しているはずだ。
だからこの家にいること自体がおかしいのだ。
今のこの状況が理解できずに、呆然とカレンダーを見つめた。
「早く支度しないと遅刻しちゃうよ?」
「っ?!!」
真後ろから聞こえた声に振り返れば、そこには一人暮らしの部屋で出会った少女が、怪しげな笑みを浮かべてベッドに腰掛けていた。
「あなた…」
「あなたじゃないよ!あ!自己紹介してなかった。わたしはサチ。」
サチと名乗る少女はベッドから降りると、よろしくねと口にしてから、綺麗に会釈をして微笑んだ。
「そうじゃなくて…!なんで…なんで私はここに…」
「おねーさんが言ったんじゃない。過去に戻るって。」
「は…?」
「おねーさんが戻ったのはちょうど4年前。高校を入学してから1ヵ月経った5月。今日は5月27日だよ。」
優しく笑うサチを、眉を寄せて見つめる。
訳が分からなかった。
過去に戻るなんてこと、起こるはずがない。
もしかしたら私は、夢を見ているのかもしれない。
そんな私の考えが分かったのか、サチは不敵な笑みを浮かべるとそっと小さな口を開いた。
「夢だと思ってるみたいだね。でもね、これ現実なんだよ。」
告げられた言葉に私はまた、は?と声を漏らす。
「そこに掛けてある制服を着て学校に行ってみてよ。おねーさんが見知った人達がちゃんといるから。それに、今日1日過ごせば分かるはずだよ。今が夢じゃないってこと。」
淡々と告げたサチは冷たい瞳で私を見上げると、スッと私の横を通り過ぎて扉の前で立ち止まってこちらに振り返った。
「じゃあ、後は頑張ってね。おねーさんが戻りたいって言ったんだから、それなりの学校生活を送るんだよ。」
「え?ちょっ…」
サチはそのまま扉を開けることなく突進したかと思えば、スッとそこに溶け込むように消えてしまった。
「消えた…?」
何度も瞬きを繰り返してみるが、そこには何もなく、あるのは閉まったままの扉だけ。
呆然と立ち尽くす私の視界の端で、密かに制服が揺れたような気がして目を向ける。
「学校…。」
思い返せば、母も先程学校に遅れると言っていた。
制服は確か、家を出るときに処分したはずだ。
ここにあるはずがない。
そもそも、ここにいること自体おかしい。
そうなると…私は過去に戻っているのだろうか…?
けれど、現実にこんなことが起こるはずはなくて。
そう思っていても、未だに混乱する頭では答えなど見つかる訳もなく、気付けば壁に掛かっている制服に手を伸ばしていた。