幸 –YUKI–
次の日。18時に落ち合った俺たちは隣町にある花火大会まで歩いて移動した。

人の多い屋台で、食べ物を買って避難する。
たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、チョコバナナ、わたあめ。
2人で分け合いながら、俺たちは花火が始まるまでのお祭りを楽しんでいた。

その間も、俺はずっと彼女への告白を考えていた。

「ちょっと見てもいい…?」

「え…あ、もちろん!」

控えめに呟く彼女にそう伝えれば、彼女はありがとうと言って、アクセサリーや雑貨が並ぶ屋台へ足を進めた。

「へいらっしゃい!」

威勢の良いおじさんが迎えてくれて、沢村は綺麗に並ぶアクセサリーを1つずつ見つめていた。
その後ろ姿をぼんやりと見つめていれば、不意に彼女が視線を止めてある一点を見つめ始めた。

「…綺麗…。」

その視線の先に目をやれば、ゆらゆら揺れながらぶら下がっている風鈴に目が止まる。

確かに、と思った。

飾られていた小さな風鈴は、まるでシャボン玉のように透き通っていて、けれど寒色系を基調としたグラデーションがされていた。ついている短冊は鮮やかな青色をしている。
その隣で揺れる風鈴は対になっているのか暖色系で、ついている短冊はピンク色をしている。

「お、おねーちゃん良いのに目つけたね。それは縁を結ぶ風鈴ストラップだよ。」

先程まで別のお客さんを相手していたおじさんが、沢村に向かってそう口にした。

「縁を…結ぶ…?」

「そうそう。これペアなんだけど、カップルで持つともしも離れ離れになったときに、この風鈴の音で2人を引き寄せてくれるんだよ。どうだい?彼氏に買ってもらいなよ?」

にかっと笑うおじさんに、沢村はえ?!と声を上げる。

縁を結ぶ…。

断っている沢村の横に立って、これ下さいとおじさんに伝える。

「え?」

戸惑う彼女の方は見ずに、俺はそそくさと会計を済ませた。

「毎度ありー。」

笑顔で手を振るおじさんに軽く会釈をしてその場から離れる。
袋に入った2つの風鈴の内、ピンク色を取り出して彼女の方へ差し出した。

「はい…これ…。」

「え…。」

目を丸くした彼女は俺と風鈴のストラップを交互に見ながら、明らかに困惑しているのが伝わってきた。

やってしまったと、今更ながら感じる。
恋人同士でもないのに、これを贈っても良かったのだろうか。
そんなことを考えながら、必死に言い訳を考える。

「えと…あの…あ!き、綺麗って言ってたから…。もし…良かったら…。」

俯きがちにそう呟けば、すっと手の中からストラップが消えた。
顔を上げれば、少し照れくさそうに彼女は笑って、ありがとうと口にした。
ドキンッと、胸が大きく音を立てて息を呑む。

「大切にするね…。」

控えめな優しい声がすっと耳に入ってきて、俺も笑みを溢して頷いた。



「花火綺麗だったな…。」

屋台から少し離れた神社で、俺たちは花火を見上げた。
隣の彼女は目を細目ながらずっと花火を見上げていて。
俺はそんな彼女の横顔を盗み見ながら、この想いを伝えようと決心していた。

「今日は本当にありがとう。」

帰り道、そう言った彼女は立ち止まって俺を見上げた。

「なんか…西川くんに会えて楽しかった…。これも、ありがとう…。」

チリンッと音を鳴らしながら、彼女は先程の風鈴ストラップを掲げる。

「ぜ、全然…。俺も、この1週間楽しかった。本当にありがとう。」

そう言って笑えば、彼女も微笑んで返してくれた。
その笑顔に頬がだんだんと熱くなるのを感じて、咄嗟に空を見上げる。

「あ…すげー綺麗…。」

見上げた星空は雲1つなく輝いていて。
近くにある月もまた、負けないくらいの光を放っている。

ふと、幼い頃によく連れていってくれた思い出の場所を思い出した。

「本当だ…。すごく綺麗…。」

彼女の方へ目をやれば、彼女は瞳を輝かせながら空を見上げていた。

その姿に胸が高鳴って、今だと思って口を開く。

「あの…さ…」

少し震えた声が、静寂とした空気の中に響いていく。
俺を見据える彼女の瞳に、痛いくらいに胸が鳴って、息苦しさを覚えた。

それでも、この想いを伝えたい。

息を吸い込んで、ゆっくりと口を開いた。

「好き…なんだ…。」

確かに伝えた言葉に、彼女が目を見開いた。

答えを聞くのが怖かった。
たった1週間しか過ごしていない俺のことを、彼女が好きになってくれるなんて思えなくて。
だから、咄嗟に出た言葉は、逃げだったのだろうか。

「返事…まだしないで…。」

「え…?」

「もし…。もし今少しでも俺のこと嫌いじゃないって…そう思ってたら、来年、いつもの公園に来て…。来年も…この時期に俺は行くから…。」

顔が見られなかった。
今、答えを聞きたくなかった。
この想いを、簡単には終わらせたくなかった。

来年、俺は必ずここに来る。
だって、俺のこの気持ちが変わることはないから。確信があった。

人を嫌って、遠ざけていた。
他人は黒くて汚いと思っていた。
そんな中で出会った心優しい彼女を、俺はずっと好きでいるのだろうと思った。

「来年…待ってるから…。」

そう告げた俺に、彼女はただ頷いただけだった。


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