冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。
霧に覆われた入口の道
「なあー、リンネさん。
この道ってもう
『亡者に会える道』になるん?」
チョウコが苔むす階段を少しずつ
登る先頭のリンネに聞いた。
リンネの身長は高くないから、
チョウコの目の前に、
檜笠が上下に揺れている。
その片手には
古道杖。
反対の手には
クライミングのステッキ。
「チョウコさん、なにを言って
いるんです?まだまだ先です!」
リンネは振り返らずに、
確実な足取りで2本の杖を
使って階段を登り、
答える。
古道は、
三山を中心に参詣道が延びる
巡礼の山道。
総本宮大社、
磐座がある新宮の大社、
大滝の大社、
に通じる参詣道は、
古来から6つのルートが
存在する。
大坂城を起点としたルートと、
伊勢の神宮から入るルートの
どちらかから半島に入り、
小辺路、中辺路、大辺路
そして吉野から三山を繋ぐ
修験の奥駈道ルート。
総本宮は西方極楽浄土、
新宮は東方浄瑠璃浄土、
滝の大社は南方補陀落浄土
とされ、
古道三山が浄土の地と見る。
「この山は、まだ南の入口です
し、本当なら『かけぬけ道』を
歩いて三山の1つ『滝の大社』
に、参詣するのが順番ですけど」
今回は三山詣でが目的では
ないので、そのまま山の
高原公園に行きますから、と
リンネは出て来た看板を指さして
2人に説明をした。
「え、、ウソぉー。ほんなら、
どこに、その道はあるんよ。」
キコが、電話で地図を写真に
撮っているのを見ながら
チョウコが聞くと、
リンネが 地図の先にある
雲取越えと書かれた道を示した。
「ここからこの道です。」
本来なら
滝の大社から総本宮への道は
雲取越えとして、
西の33観音巡礼のメインルート。
滝の大社と総本宮の間を
使って行く。
「このルートを、古来の人は1日
で歩きましたけど、さすがに今は
2日に分けて歩くのが普通です」
半島の古道はしばしば
現代の国県道に組み込まれる。
これには半島の中央部が
湿気山と谷に深く覆われ、
交通開発が
今も容易ではないからだ。
それだけ 歩くのも
簡単ではない古道。
だから古来の人々は、
この山合谷合の地形を利用して、
総本宮と新宮の大社
を巡拝するのに
川舟下りをも
利用してきた。
「 そして、わたしたちがいる
のはまだココ。滝の大社から
南に2時間弱歩いた場所。まだ
入口になるんですから!!」
リンネは当たり前の顔をして
看板のはじっこを指さした。
「えぇ?じゃあ、これは、
今日着かへんってことやん?
ホンマ歩くんやなぁ古道って。」
キコが看板をシゲシゲと見つめて
ぼやく。
チョウコは、そっと リンネの足を
盗み見た。
それでもと、
リンネが言うには
この
『かけぬけ道』は、寺と滝の大社を繋ぐ南の道として、
今も苔むす石畳が
美しく残る歴史道。
特に趣ある階段道には
見晴らし台から、富士山も
見える なかなかの道なのだと
豪語した。
あいにくの 霧だが。
チョウコが、リンネの足を
見ていた事には、
キコも気が付いていた。
「リンネさん、ホンマにええの?
足とか、、大変ちゃうって、
今更やねんけど、ほら、なぁ?」
今度はチョウコがキコを
チラリと見てくる。
「杖がありますし、ゆっくりなら
問題ないです。気にしないで。」
リンネは、やっぱり振り返らず、
看板から離れて
進み始めた。
リンネの足は、一見すると普通に
見えるが、
昨日の夜に 見せられた片足は
「指、なかった。」
義足というより、リンネが
付けているのは 足付け指。
機能性より、見た目の為の
装着具だった。
『義足とか、付け足って
古代インドにはすでにあったん
ですよ。青銅の義足とかも
遺跡から発見されたりしてます』
そういって、リンネは見せていた
足に、ラバーの指を着けて
靴下を履いた。
『人間って、足の小指を怪我する
だけでバランスがとれないから、
正座から立ち上がるのは、
床を掴めないので 出来なくて』
イメージしやすいように、
義足だと言いました。
リンネは、何でもないと顔に
作ってチョウコとキコに
厳密には、付け指ですと
説明して、事故で指を失ったとも
話してくれた。
義足は膝がある、無しで
運動負荷が全然違うから、
自分は 足首と足の平があるのは
有難い事だとも。
それでも、
その足で、チョウコとキコを
案内してくれる
理由は、
結局昨日、リンネは
話さなかった。
チョウコとキコの不思議な
先達、リンネ。
その
背の低い檜笠から、
1つに括られた
ライトブラウンのウェーブヘアー
が馬のシッポみたいに
揺れていて、
「あれ?なんや、中国の古事
みたいやわぁ。アハハ。」
急に最後尾のキコが笑うと、
真ん中のチョウコが
振り返る。
「ソレナニよ?」
「いやぁ、わたしら ハエやなぁ」
キコは、また肩を揺らして
そんな2人に リンネが
先頭で呆れたため息を
つくのが
チョウコにも わかった。
眺めが開けているであろう、
木立の隙間には、
以前
深い霧が 立ち込める。
馬、ハエ3人の前途を
占うように。
この道ってもう
『亡者に会える道』になるん?」
チョウコが苔むす階段を少しずつ
登る先頭のリンネに聞いた。
リンネの身長は高くないから、
チョウコの目の前に、
檜笠が上下に揺れている。
その片手には
古道杖。
反対の手には
クライミングのステッキ。
「チョウコさん、なにを言って
いるんです?まだまだ先です!」
リンネは振り返らずに、
確実な足取りで2本の杖を
使って階段を登り、
答える。
古道は、
三山を中心に参詣道が延びる
巡礼の山道。
総本宮大社、
磐座がある新宮の大社、
大滝の大社、
に通じる参詣道は、
古来から6つのルートが
存在する。
大坂城を起点としたルートと、
伊勢の神宮から入るルートの
どちらかから半島に入り、
小辺路、中辺路、大辺路
そして吉野から三山を繋ぐ
修験の奥駈道ルート。
総本宮は西方極楽浄土、
新宮は東方浄瑠璃浄土、
滝の大社は南方補陀落浄土
とされ、
古道三山が浄土の地と見る。
「この山は、まだ南の入口です
し、本当なら『かけぬけ道』を
歩いて三山の1つ『滝の大社』
に、参詣するのが順番ですけど」
今回は三山詣でが目的では
ないので、そのまま山の
高原公園に行きますから、と
リンネは出て来た看板を指さして
2人に説明をした。
「え、、ウソぉー。ほんなら、
どこに、その道はあるんよ。」
キコが、電話で地図を写真に
撮っているのを見ながら
チョウコが聞くと、
リンネが 地図の先にある
雲取越えと書かれた道を示した。
「ここからこの道です。」
本来なら
滝の大社から総本宮への道は
雲取越えとして、
西の33観音巡礼のメインルート。
滝の大社と総本宮の間を
使って行く。
「このルートを、古来の人は1日
で歩きましたけど、さすがに今は
2日に分けて歩くのが普通です」
半島の古道はしばしば
現代の国県道に組み込まれる。
これには半島の中央部が
湿気山と谷に深く覆われ、
交通開発が
今も容易ではないからだ。
それだけ 歩くのも
簡単ではない古道。
だから古来の人々は、
この山合谷合の地形を利用して、
総本宮と新宮の大社
を巡拝するのに
川舟下りをも
利用してきた。
「 そして、わたしたちがいる
のはまだココ。滝の大社から
南に2時間弱歩いた場所。まだ
入口になるんですから!!」
リンネは当たり前の顔をして
看板のはじっこを指さした。
「えぇ?じゃあ、これは、
今日着かへんってことやん?
ホンマ歩くんやなぁ古道って。」
キコが看板をシゲシゲと見つめて
ぼやく。
チョウコは、そっと リンネの足を
盗み見た。
それでもと、
リンネが言うには
この
『かけぬけ道』は、寺と滝の大社を繋ぐ南の道として、
今も苔むす石畳が
美しく残る歴史道。
特に趣ある階段道には
見晴らし台から、富士山も
見える なかなかの道なのだと
豪語した。
あいにくの 霧だが。
チョウコが、リンネの足を
見ていた事には、
キコも気が付いていた。
「リンネさん、ホンマにええの?
足とか、、大変ちゃうって、
今更やねんけど、ほら、なぁ?」
今度はチョウコがキコを
チラリと見てくる。
「杖がありますし、ゆっくりなら
問題ないです。気にしないで。」
リンネは、やっぱり振り返らず、
看板から離れて
進み始めた。
リンネの足は、一見すると普通に
見えるが、
昨日の夜に 見せられた片足は
「指、なかった。」
義足というより、リンネが
付けているのは 足付け指。
機能性より、見た目の為の
装着具だった。
『義足とか、付け足って
古代インドにはすでにあったん
ですよ。青銅の義足とかも
遺跡から発見されたりしてます』
そういって、リンネは見せていた
足に、ラバーの指を着けて
靴下を履いた。
『人間って、足の小指を怪我する
だけでバランスがとれないから、
正座から立ち上がるのは、
床を掴めないので 出来なくて』
イメージしやすいように、
義足だと言いました。
リンネは、何でもないと顔に
作ってチョウコとキコに
厳密には、付け指ですと
説明して、事故で指を失ったとも
話してくれた。
義足は膝がある、無しで
運動負荷が全然違うから、
自分は 足首と足の平があるのは
有難い事だとも。
それでも、
その足で、チョウコとキコを
案内してくれる
理由は、
結局昨日、リンネは
話さなかった。
チョウコとキコの不思議な
先達、リンネ。
その
背の低い檜笠から、
1つに括られた
ライトブラウンのウェーブヘアー
が馬のシッポみたいに
揺れていて、
「あれ?なんや、中国の古事
みたいやわぁ。アハハ。」
急に最後尾のキコが笑うと、
真ん中のチョウコが
振り返る。
「ソレナニよ?」
「いやぁ、わたしら ハエやなぁ」
キコは、また肩を揺らして
そんな2人に リンネが
先頭で呆れたため息を
つくのが
チョウコにも わかった。
眺めが開けているであろう、
木立の隙間には、
以前
深い霧が 立ち込める。
馬、ハエ3人の前途を
占うように。