冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。
キコ。舟が見える峠まで
所々朱色がキレイな
八重の五色椿が
チラチラ落ちて、道に
彩りを添えてはる。
「こーして袖振り合うんも、
なんかの縁やで?言いたかない
なら、言わんでもえーけど
黙ーって歩くん、
しんどいやんか、
自己紹介かねて話てみーや。」
チョウコさんがうちを
見下ろす格好で、
挑発しはるから、
「そうやなぁ。」
ちこっと考えてみる。
まあ、
ええやろか。
「映画で有名になった『マルサ』
って知ってます?あない
言い方 もうせんけど、
あん部署があるとこが、
うちの、前の会社ですわ。」
言葉を選んで
話することにするわ。
あれま?チョウコさんとこ
もしかして、お客さんですのん?
顔みたら、たいがいわかります。
実家がって?そりゃ
えらい繁盛してはるんやねぇ。
「あない大層な
部署やないんですけど。まあ、
事務計算とか、みたいなねぇ」
ちょぼちょぼ
話て歩くんも、わるうない。
黙々歩くも気い遣うし。
杉の葉枯れて
この辺りは
だいぶん落ちてて、詫びやわ。
「うちは、そろばんが
他より出来たもんやから、
高卒ですぐ仕事つこう思って
試験受けた口やさかい
最初の部で 、よおよお
務めさしてもろたら、
じき 寿退社やわぁって。」
本店は、
サンズイ で事務処理が
最初やったんやもん。
懐かしいわ。
「ふーん。」ってチョウコさんの
相づちで話は終わる。
ぼちぼち話して
3人並んで歩くと立派な石碑が
出てきはった。
お日さんも当たる様になって
明るうなった気がする。
「えっらい仰々しい名前やん。」
ケイブ?え、デカ?とかいうて
チョウコさん、
出てきた石碑の名前を
読んで頭を傾げてはるわ。
確かに何て読みはるんやろ?
まあ『オサカベ』なんやろか?
『ギョウブ』かもしれへん。
リンネさん曰く
かりばぎょうぶざえもん
やて。
「500年ぐらい前、この三山に
1眼1足で、釣鐘を被って
身を防ぐ、4mの
『1つ目たたら』って怪物が
住み着いてしまったんです。
怪物が滝の大社の宝とか、
旅人を強盗したりして、古道
詣でが出来なくなったって、」
へぇ、
ほんまリンネさん、
よう知ってはるわあ。
それで、
その怪物を倒した落武者の
石碑が これなんやね!
かしこなるわぁ。
「紀州は7割山ですし、
魑魅魍魎の話 多いんです。」
そう、
リンネさんが、4メーターやと
この杉ぐらいあって、
鉄砲で打つとこっちが
狂ってしまうやて
怖い事を
示してくれはる。
落武者さんは
99本も矢ぁ打ち尽くして、
お母はんの呪矢でようやく
射倒したんやて。
「4メーターなんか壁やわ、」
リンネさんが叩きはる
杉の木を見上げて、
釣り鐘の体や考えたら
ゾッとする。
部署換えされた時、
えらいとこ飛ばされたって
軽う絶望したん思い出すわ。
落武者はん、99本死にもの狂いで
弓つがいたんやろな。
怪物に。
「キコさん、
どないした?腑抜けてんで。」
ほんまに急に話しかけはるんよ
チョウコさん。
本人はニカッと
して 山谷袋から
ペットボトルをがぶ飲みやわ。
「なんや、すぐ見合い
結婚して、やめるつもりが
うちも 怪物の相手してたら、
ずるずる荒れ狂う荒野に
長居したなぁって。」
いろいろ思いだしてた
だけやのよ。
チョウコさんが車で
かけてた演歌とおんなし。
魑魅魍魎百鬼夜行、
でこぼこ坂~ まがり道~
今の古道みたいやわ。
「うちも お茶、飲んどこ。」
気い取り直して、
また3人で行軍行軍。
行くうちに
チラチラ
林道が見えてきよるわ。
「リンネさん、さっきからある
あの お石さん、何やろか?」
珠にね、
木立の中とか道の端っこに
丸っこい大きな石があって、
苔なんかついてはると
絵になるから
写真に
撮ってたんよ。
ちょうど『登立茶屋跡』って
札が出て来た頃、
リンネさんに
聞いてみた。
『たまご石』いうらしい。
「火山がない半島も、15000年前
には、火山活動があって、その
石の核が残ったものだとか。」
リンネさんの言葉に
チョウコさんが
「そんでか!土からボコって
生まれたみたいなん あったわ」
てっきりうちも、
参道つくるんに、切り出したの
そのまんまにしはったんやと
思ったわぁ。
自然の力なんやねぇ。
チョウコさんと2人で
なっとくして、
更に石段を上がる。
と、
前を歩くチョウコさんが
出し抜けに
「ほな、キコさんお見合い
せんで、仕事一筋やってんな。」
思い出したみたいに
話てきはった。
話の間合いが格闘技やわ。
「仕方なしやわ。ずうっと
おんなし部署におるって思っと
ったのに、急にえげつない
配置替えがあったんよ。」
汗かいてくるのを
拭って思う。
人事異動
いうよりも、
引き抜かれたいうのが
ほんまのところやったって
知ったのは随分後やったわ。
いきなりの、ギョウニン異動。
「総合職いうのん?各部署で
女性を半分は登用しようとか
時の政府のお達し?そやから、
隣の部署に見初められたんよ」
ギョウニンの長が、
うちを、
サンズイに措いとくのは
勿体ないとか
いいよって、
引き抜きしはった先。
「そこは督促回収が仕事やって、
その道の人らに混じって、倒産
会社張り込んで取り立てする
そんな仕事やったんよ。もう、
パンツスーツで立ちっぱなし」
おまけに
お仕えした上司は
何人も自死に追い込む 鬼長。
言う事聞かなんだら、
守ってくれへん主義やったから
言われるとおりに
はじめは、必死。
ほんま地獄やったわ。
「闇金の追い込みの輩を
必死のぱっちで出し抜いてぇ、
逃げはるお客さんを
取っ捕まえたら有るもん、少し
でも回収して、金にもどすんよ」
比喩やないよ
2メーターの壁、ほおて登って
社長の首ねっこ取ったんも
何度あったかわからへんの。
「スーツドロドロ、
エアー椅子で書類つくって。
トイレもいかれへんさかい、
今でも必ずトイレの確認する
のん、これ、トラウマやわ。
男なら、どこなと
出来てよろしいけど。」
いつの間にか、、
坂の杉木立の中
峠らしい感じにさしかかると
東屋が見えて来た。
って、
え?リンネさん
「キコさん。それって、得意の
ソロバン関係ないですよね。」
どうしはったん?
いややわ、残念な顔して~。
「ゆーより、高卒の女子の仕事や
ないやん!!えげつな!よう
やってこれたな、キコさん!」
チョウコさんまで?
あ、息上がってきて
ハイになったら余計な事言うた?
「冗談やで。
いらんこと言うてたら、
いー眺めになってるわ。」
失敗したわ。下手したわ。
なんぼゆうても、お上仕事やから
えげつないのは隠さんと。
そやけど、
お山が見えて、麓の町も
ようよう広がる景色。
見渡す限りの 海で
ええ眺望ポイントやわ。
「まあ、、着きました。
舟見茶屋跡なんで休憩します」
リンネさんは、怪訝顔やけど
東屋に腰を下ろしましょうって、
言うてくれはる。
「この先からが、
『亡者の出会い』の道に入る
舟見峠です。雲取越で1番高い
峠になりますけど、そのぶん
海に浮かぶ舟が見えるぐらい
開けてるビューポイントです。」
そんで見えてる、
海の向こっかわに補陀落浄土が
あって、そこに
舟で修行に出たんやて。
「戻らない、舟やね。」
チョウコさんが、さっきまでが
ウソみたいに、なんやろ
しんみりして見えるはる。
「人生も舟修行やけどなあ。」
もうここから
『亡者の出会い』ていわれる
古道の本腰が始まるらしいし
気ぃも引き締まる。
「さっきのですけど、
わたし、そんな大変な所に
ハジメさんがいてたなんて、
知らなかったんで、キコさんの
話、少し、驚きました。」
あらまぁ、リンネさん、
気い遣こうて
話変えてくれるんやわ。
年下やろに苦労人やねぇ。
「アハハ、ハジメくんはまた、
部署違うんやわ。ほんでも、
もっと大変なのはあっちかなあ。
ほんまは部署が違うと、あんまり
接点ないんやけど、ハジメくん
同期やって、仲良うしてたから」
うちのセリフにピンと
きたんやろ、
「あー!朝のタレ目シケメン、
キコさんのダーリンと友達
ゆーてたやん。職場の同僚が
旦那さんやったってこと?」
チョウコさんが ニマニマして
聞いてきはった。
から、素直に答える。
「旦那は、ハジメくんの先輩
やったんやわ。もう亡くなって
何年やろかなぁ。チョウコさん
言いはるみたいに、
こっから会えたら、いいなあ。」
また、リンネさんも
チョウコさんも微妙な顔やわ。
うちはそない楽しみに
してたんやわ。って。
内心、自分のこの言葉に
おどろいてるぐらいやのに。
いややわぁ、気ぃ遣わんといて
もしかして、
技決めてしもたやろか?
八重の五色椿が
チラチラ落ちて、道に
彩りを添えてはる。
「こーして袖振り合うんも、
なんかの縁やで?言いたかない
なら、言わんでもえーけど
黙ーって歩くん、
しんどいやんか、
自己紹介かねて話てみーや。」
チョウコさんがうちを
見下ろす格好で、
挑発しはるから、
「そうやなぁ。」
ちこっと考えてみる。
まあ、
ええやろか。
「映画で有名になった『マルサ』
って知ってます?あない
言い方 もうせんけど、
あん部署があるとこが、
うちの、前の会社ですわ。」
言葉を選んで
話することにするわ。
あれま?チョウコさんとこ
もしかして、お客さんですのん?
顔みたら、たいがいわかります。
実家がって?そりゃ
えらい繁盛してはるんやねぇ。
「あない大層な
部署やないんですけど。まあ、
事務計算とか、みたいなねぇ」
ちょぼちょぼ
話て歩くんも、わるうない。
黙々歩くも気い遣うし。
杉の葉枯れて
この辺りは
だいぶん落ちてて、詫びやわ。
「うちは、そろばんが
他より出来たもんやから、
高卒ですぐ仕事つこう思って
試験受けた口やさかい
最初の部で 、よおよお
務めさしてもろたら、
じき 寿退社やわぁって。」
本店は、
サンズイ で事務処理が
最初やったんやもん。
懐かしいわ。
「ふーん。」ってチョウコさんの
相づちで話は終わる。
ぼちぼち話して
3人並んで歩くと立派な石碑が
出てきはった。
お日さんも当たる様になって
明るうなった気がする。
「えっらい仰々しい名前やん。」
ケイブ?え、デカ?とかいうて
チョウコさん、
出てきた石碑の名前を
読んで頭を傾げてはるわ。
確かに何て読みはるんやろ?
まあ『オサカベ』なんやろか?
『ギョウブ』かもしれへん。
リンネさん曰く
かりばぎょうぶざえもん
やて。
「500年ぐらい前、この三山に
1眼1足で、釣鐘を被って
身を防ぐ、4mの
『1つ目たたら』って怪物が
住み着いてしまったんです。
怪物が滝の大社の宝とか、
旅人を強盗したりして、古道
詣でが出来なくなったって、」
へぇ、
ほんまリンネさん、
よう知ってはるわあ。
それで、
その怪物を倒した落武者の
石碑が これなんやね!
かしこなるわぁ。
「紀州は7割山ですし、
魑魅魍魎の話 多いんです。」
そう、
リンネさんが、4メーターやと
この杉ぐらいあって、
鉄砲で打つとこっちが
狂ってしまうやて
怖い事を
示してくれはる。
落武者さんは
99本も矢ぁ打ち尽くして、
お母はんの呪矢でようやく
射倒したんやて。
「4メーターなんか壁やわ、」
リンネさんが叩きはる
杉の木を見上げて、
釣り鐘の体や考えたら
ゾッとする。
部署換えされた時、
えらいとこ飛ばされたって
軽う絶望したん思い出すわ。
落武者はん、99本死にもの狂いで
弓つがいたんやろな。
怪物に。
「キコさん、
どないした?腑抜けてんで。」
ほんまに急に話しかけはるんよ
チョウコさん。
本人はニカッと
して 山谷袋から
ペットボトルをがぶ飲みやわ。
「なんや、すぐ見合い
結婚して、やめるつもりが
うちも 怪物の相手してたら、
ずるずる荒れ狂う荒野に
長居したなぁって。」
いろいろ思いだしてた
だけやのよ。
チョウコさんが車で
かけてた演歌とおんなし。
魑魅魍魎百鬼夜行、
でこぼこ坂~ まがり道~
今の古道みたいやわ。
「うちも お茶、飲んどこ。」
気い取り直して、
また3人で行軍行軍。
行くうちに
チラチラ
林道が見えてきよるわ。
「リンネさん、さっきからある
あの お石さん、何やろか?」
珠にね、
木立の中とか道の端っこに
丸っこい大きな石があって、
苔なんかついてはると
絵になるから
写真に
撮ってたんよ。
ちょうど『登立茶屋跡』って
札が出て来た頃、
リンネさんに
聞いてみた。
『たまご石』いうらしい。
「火山がない半島も、15000年前
には、火山活動があって、その
石の核が残ったものだとか。」
リンネさんの言葉に
チョウコさんが
「そんでか!土からボコって
生まれたみたいなん あったわ」
てっきりうちも、
参道つくるんに、切り出したの
そのまんまにしはったんやと
思ったわぁ。
自然の力なんやねぇ。
チョウコさんと2人で
なっとくして、
更に石段を上がる。
と、
前を歩くチョウコさんが
出し抜けに
「ほな、キコさんお見合い
せんで、仕事一筋やってんな。」
思い出したみたいに
話てきはった。
話の間合いが格闘技やわ。
「仕方なしやわ。ずうっと
おんなし部署におるって思っと
ったのに、急にえげつない
配置替えがあったんよ。」
汗かいてくるのを
拭って思う。
人事異動
いうよりも、
引き抜かれたいうのが
ほんまのところやったって
知ったのは随分後やったわ。
いきなりの、ギョウニン異動。
「総合職いうのん?各部署で
女性を半分は登用しようとか
時の政府のお達し?そやから、
隣の部署に見初められたんよ」
ギョウニンの長が、
うちを、
サンズイに措いとくのは
勿体ないとか
いいよって、
引き抜きしはった先。
「そこは督促回収が仕事やって、
その道の人らに混じって、倒産
会社張り込んで取り立てする
そんな仕事やったんよ。もう、
パンツスーツで立ちっぱなし」
おまけに
お仕えした上司は
何人も自死に追い込む 鬼長。
言う事聞かなんだら、
守ってくれへん主義やったから
言われるとおりに
はじめは、必死。
ほんま地獄やったわ。
「闇金の追い込みの輩を
必死のぱっちで出し抜いてぇ、
逃げはるお客さんを
取っ捕まえたら有るもん、少し
でも回収して、金にもどすんよ」
比喩やないよ
2メーターの壁、ほおて登って
社長の首ねっこ取ったんも
何度あったかわからへんの。
「スーツドロドロ、
エアー椅子で書類つくって。
トイレもいかれへんさかい、
今でも必ずトイレの確認する
のん、これ、トラウマやわ。
男なら、どこなと
出来てよろしいけど。」
いつの間にか、、
坂の杉木立の中
峠らしい感じにさしかかると
東屋が見えて来た。
って、
え?リンネさん
「キコさん。それって、得意の
ソロバン関係ないですよね。」
どうしはったん?
いややわ、残念な顔して~。
「ゆーより、高卒の女子の仕事や
ないやん!!えげつな!よう
やってこれたな、キコさん!」
チョウコさんまで?
あ、息上がってきて
ハイになったら余計な事言うた?
「冗談やで。
いらんこと言うてたら、
いー眺めになってるわ。」
失敗したわ。下手したわ。
なんぼゆうても、お上仕事やから
えげつないのは隠さんと。
そやけど、
お山が見えて、麓の町も
ようよう広がる景色。
見渡す限りの 海で
ええ眺望ポイントやわ。
「まあ、、着きました。
舟見茶屋跡なんで休憩します」
リンネさんは、怪訝顔やけど
東屋に腰を下ろしましょうって、
言うてくれはる。
「この先からが、
『亡者の出会い』の道に入る
舟見峠です。雲取越で1番高い
峠になりますけど、そのぶん
海に浮かぶ舟が見えるぐらい
開けてるビューポイントです。」
そんで見えてる、
海の向こっかわに補陀落浄土が
あって、そこに
舟で修行に出たんやて。
「戻らない、舟やね。」
チョウコさんが、さっきまでが
ウソみたいに、なんやろ
しんみりして見えるはる。
「人生も舟修行やけどなあ。」
もうここから
『亡者の出会い』ていわれる
古道の本腰が始まるらしいし
気ぃも引き締まる。
「さっきのですけど、
わたし、そんな大変な所に
ハジメさんがいてたなんて、
知らなかったんで、キコさんの
話、少し、驚きました。」
あらまぁ、リンネさん、
気い遣こうて
話変えてくれるんやわ。
年下やろに苦労人やねぇ。
「アハハ、ハジメくんはまた、
部署違うんやわ。ほんでも、
もっと大変なのはあっちかなあ。
ほんまは部署が違うと、あんまり
接点ないんやけど、ハジメくん
同期やって、仲良うしてたから」
うちのセリフにピンと
きたんやろ、
「あー!朝のタレ目シケメン、
キコさんのダーリンと友達
ゆーてたやん。職場の同僚が
旦那さんやったってこと?」
チョウコさんが ニマニマして
聞いてきはった。
から、素直に答える。
「旦那は、ハジメくんの先輩
やったんやわ。もう亡くなって
何年やろかなぁ。チョウコさん
言いはるみたいに、
こっから会えたら、いいなあ。」
また、リンネさんも
チョウコさんも微妙な顔やわ。
うちはそない楽しみに
してたんやわ。って。
内心、自分のこの言葉に
おどろいてるぐらいやのに。
いややわぁ、気ぃ遣わんといて
もしかして、
技決めてしもたやろか?