冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。
閑話、ギャラリストとカメラマンのGalaxy
紀州の古道信仰で
特色を聞かれたなら、
ギャラリーオーナーである
ハジメならは
迷わず『補陀落思想』と
こたえる。
海の果てなる地に座す
観音信仰は、
土佐の国にも見られるが
この紀州には全国から
南の海の果てにある
補陀落を目指して船出する
「補陀落渡海」の為に
僧が集まった。
生きながらに、
船なる修行に死し
浄土に生まれ変わって
成仏し、
再び現世に帰っていくという
道、目的地にではなく、
船修行、旅
そのものに意味をみいだす
片道切符の うつぼ舟。
フランス革命、産業革命成された
時代まで行われていたから
驚きだ。
サンスクリット語で
「ポタラカ」は『補陀落』。
古道信仰では
南の彼方にある観音菩薩の
住まう見果てぬ浄土。
時に、
インドの南端にあると説かれ
実際
インドで唯一、
太陽が海から昇って沈み
その朝日と夕日は、
世界で最も美しいと吟われる
ヒンドゥー巡礼の聖地岬だ。
また、チベット仏教においては
ダライラマが住まう宮殿自体が
ポタラ=補陀落宮と称される。
そして
中国に至っては
舟山諸島の2つの島を
補陀落という。
そこは
海に浮かぶ秘境の仏国として
「海に山が浮かび、山は虚空」と
称賛される神聖な空間。
「海天仏国」や「南海聖境」
として
無宗教とされる中華においても
今尚信仰をあつめ
我が国から
1番近い中華大陸の島
でもあるのだ。
そして、
この海は遥か昔
不老長寿の薬をもとめて
渡ってきた渡来人が
自生する天台烏薬を発見した
場所でもあって
そんな海が今、
ハジメの目の前に大海原と
広がっている。
「ねぇん、ぺーは。
あとどれぐらいかなぁん。
ちょ~っと、寒いんだよねん」
ギャラリー『武々1B』オーナー
ハジメ。
ギャラリスト探偵とも呼ばれる
彼の目の前には
VRメガネを掛けて、リモコンを
操作するカメラマンが
ジュラルミンケースと、三脚を
横に佇んでいる。
「せっかくさぁ~、新宮までねぇ
来たんだからさぁ、温泉とか
そろそろ入りたいんだけどねぇ
チェックインまで、もしかして
アングルチェックとかさぁ、
しないぁ、ふあっくしょん!」
白のロングコートをバタバタ
風に煽らせて、ハジメは
派手にくしゃみをしてみせたが、
カメラマンは
微動だにしない。
「ちぇ~。ぺーは。相手にもして
くんないんだもんなぁ。あ!
そ~だ!レディドールんとこ
いっちゃおっかなあ~~。」
見渡す限りの長い浜辺は
吹きっさらし。
「ハジメさん、依頼の寝台トレイ
ン。1日に1回の往復運行しか
ないんですよ。今日決めとか
ないと、明日に上げれません」
ハジメに目もくれず、
カメラマンは手元のリモコンを
操作しながら漸く答えた。
「わかってるよん。もともと、
山陰と山陽だけの運行が、紀南
コースも追加になったんだもん
ねぇ。そのうち伊勢周りとかも
出来たりしてぇ。そしたら、
この寝台トレインって一大巡礼
路をサポートする観光列車に
きっとなるよん。すごいなぁ」
そうカメラマンに
嬉しそうにハジメはしゃべると
徐に ポケットから電話を出した。
カメラマンは下関から
比較的新しくデビューした
寝台列車を乗り継いでくると
ハジメは串本で合流し
今、この浜辺にいる。
カメラマンはハジメのもと
アートフォトも撮るが、もとは
観光フォトグラファー。
今回はツーリスト依頼で、
新しくコースデビューをした
寝台列車のドローン撮影に
来ている。
宇宙、空、海を思わせる
紺碧の車体が美しい寝台列車は、
近年のラグジュアリートレイン
とは違い比較的カジュアルライン
なにより、
交通不毛地帯の紀州にあって、
海沿いを走る
Seaトレインになる。
「あ!瀞峡にいるじゃ~ん!
ねぇ、ぺーは。!僕は先に
レディドールの所行ってこよう
かな~って思うんだけど。」
ハジメは電話の画面を見ながら
カメラマンに振り替える。
「え、え、。ハジメさん?なんで
場所、わかるんですかっ?!
あ!わっー!!やば!! っ て」
一瞬VRメガネのままに、ハジメを
振り替えったカメラマンが
慌ててリモコンを操作し直す。
ドローンが危うく
ダメになるところだったのだろう
「えぇーだってぇ、レディドール
にはGPS持ってもらってるも
ん。ていうか~、朝の漁師めし
しか食べてないからぁ、お腹
すいたよねん。あ、ぺーは。
は、夜食にご当地ラーメン食べ
れたんだよねん。ラーメンいこ
うかなぁ。グルメページみよ」
ハジメが手元に視線を戻すと
遠く上空からドローンの音が
聞こえてきた。
カメラマンが、帰還操縦した
のだとハジメの口が
ニンマリと弓なりになる。
「あれぇ?ぺーは。もう終わり?
って何?どぉ~したのん?」
カメラマンは掛けていた
VRカメラを外して、
酷く不機嫌そうな顔をしている。
ガタイのいい熊のような
彼の、もの言いたげな雰囲気を
揶揄するように
ハジメは画面に表示させた
グルメサイトを
カメラマンにみせて
「ご当地牛のラーメンあるよん」
熊肉っぽく映る
ゴロゴロチャーシューがのる
ラーメンを
悪戯顔でねだった。
特色を聞かれたなら、
ギャラリーオーナーである
ハジメならは
迷わず『補陀落思想』と
こたえる。
海の果てなる地に座す
観音信仰は、
土佐の国にも見られるが
この紀州には全国から
南の海の果てにある
補陀落を目指して船出する
「補陀落渡海」の為に
僧が集まった。
生きながらに、
船なる修行に死し
浄土に生まれ変わって
成仏し、
再び現世に帰っていくという
道、目的地にではなく、
船修行、旅
そのものに意味をみいだす
片道切符の うつぼ舟。
フランス革命、産業革命成された
時代まで行われていたから
驚きだ。
サンスクリット語で
「ポタラカ」は『補陀落』。
古道信仰では
南の彼方にある観音菩薩の
住まう見果てぬ浄土。
時に、
インドの南端にあると説かれ
実際
インドで唯一、
太陽が海から昇って沈み
その朝日と夕日は、
世界で最も美しいと吟われる
ヒンドゥー巡礼の聖地岬だ。
また、チベット仏教においては
ダライラマが住まう宮殿自体が
ポタラ=補陀落宮と称される。
そして
中国に至っては
舟山諸島の2つの島を
補陀落という。
そこは
海に浮かぶ秘境の仏国として
「海に山が浮かび、山は虚空」と
称賛される神聖な空間。
「海天仏国」や「南海聖境」
として
無宗教とされる中華においても
今尚信仰をあつめ
我が国から
1番近い中華大陸の島
でもあるのだ。
そして、
この海は遥か昔
不老長寿の薬をもとめて
渡ってきた渡来人が
自生する天台烏薬を発見した
場所でもあって
そんな海が今、
ハジメの目の前に大海原と
広がっている。
「ねぇん、ぺーは。
あとどれぐらいかなぁん。
ちょ~っと、寒いんだよねん」
ギャラリー『武々1B』オーナー
ハジメ。
ギャラリスト探偵とも呼ばれる
彼の目の前には
VRメガネを掛けて、リモコンを
操作するカメラマンが
ジュラルミンケースと、三脚を
横に佇んでいる。
「せっかくさぁ~、新宮までねぇ
来たんだからさぁ、温泉とか
そろそろ入りたいんだけどねぇ
チェックインまで、もしかして
アングルチェックとかさぁ、
しないぁ、ふあっくしょん!」
白のロングコートをバタバタ
風に煽らせて、ハジメは
派手にくしゃみをしてみせたが、
カメラマンは
微動だにしない。
「ちぇ~。ぺーは。相手にもして
くんないんだもんなぁ。あ!
そ~だ!レディドールんとこ
いっちゃおっかなあ~~。」
見渡す限りの長い浜辺は
吹きっさらし。
「ハジメさん、依頼の寝台トレイ
ン。1日に1回の往復運行しか
ないんですよ。今日決めとか
ないと、明日に上げれません」
ハジメに目もくれず、
カメラマンは手元のリモコンを
操作しながら漸く答えた。
「わかってるよん。もともと、
山陰と山陽だけの運行が、紀南
コースも追加になったんだもん
ねぇ。そのうち伊勢周りとかも
出来たりしてぇ。そしたら、
この寝台トレインって一大巡礼
路をサポートする観光列車に
きっとなるよん。すごいなぁ」
そうカメラマンに
嬉しそうにハジメはしゃべると
徐に ポケットから電話を出した。
カメラマンは下関から
比較的新しくデビューした
寝台列車を乗り継いでくると
ハジメは串本で合流し
今、この浜辺にいる。
カメラマンはハジメのもと
アートフォトも撮るが、もとは
観光フォトグラファー。
今回はツーリスト依頼で、
新しくコースデビューをした
寝台列車のドローン撮影に
来ている。
宇宙、空、海を思わせる
紺碧の車体が美しい寝台列車は、
近年のラグジュアリートレイン
とは違い比較的カジュアルライン
なにより、
交通不毛地帯の紀州にあって、
海沿いを走る
Seaトレインになる。
「あ!瀞峡にいるじゃ~ん!
ねぇ、ぺーは。!僕は先に
レディドールの所行ってこよう
かな~って思うんだけど。」
ハジメは電話の画面を見ながら
カメラマンに振り替える。
「え、え、。ハジメさん?なんで
場所、わかるんですかっ?!
あ!わっー!!やば!! っ て」
一瞬VRメガネのままに、ハジメを
振り替えったカメラマンが
慌ててリモコンを操作し直す。
ドローンが危うく
ダメになるところだったのだろう
「えぇーだってぇ、レディドール
にはGPS持ってもらってるも
ん。ていうか~、朝の漁師めし
しか食べてないからぁ、お腹
すいたよねん。あ、ぺーは。
は、夜食にご当地ラーメン食べ
れたんだよねん。ラーメンいこ
うかなぁ。グルメページみよ」
ハジメが手元に視線を戻すと
遠く上空からドローンの音が
聞こえてきた。
カメラマンが、帰還操縦した
のだとハジメの口が
ニンマリと弓なりになる。
「あれぇ?ぺーは。もう終わり?
って何?どぉ~したのん?」
カメラマンは掛けていた
VRカメラを外して、
酷く不機嫌そうな顔をしている。
ガタイのいい熊のような
彼の、もの言いたげな雰囲気を
揶揄するように
ハジメは画面に表示させた
グルメサイトを
カメラマンにみせて
「ご当地牛のラーメンあるよん」
熊肉っぽく映る
ゴロゴロチャーシューがのる
ラーメンを
悪戯顔でねだった。