その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
甘い抱擁に溶かされて、モヤモヤした思いが口からするりと出口を求めて吐き出される。
「女性とのお泊りに慣れてる感じが嫌だったの。着替えはともかく、クレンジングとか化粧水にまで気が回る男の人なんて初めて見た」
「あぁ。なんだそんなこと」
遊人さんは嬉しそうに笑った。
「別に過去に女がそう言ってたな、とかじゃないよ?俺の年の離れた姉貴がメイクアップアーティストなんだ。小さい頃から練習台にされてたから、その辺の知識は普通の男よりはあるかも」
「…おねえさん」
「俺、誰かとどっかに泊まったことって修学旅行以外でないよ。次の日休みだろうと絶対家に帰ってきてた。だから、お泊りも初体験」
宥めるように髪を撫でられて、ちょっとしたことで妬いていた自分が恥ずかしくなる。
「…ごめん、面倒くさい女で」
「なんで。俺すごい嬉しい、妬かれるの」
「…変態」
「ねぇ、相変わらず俺の扱い酷くない?」
「ふふっ、自業自得でしょ」
「じゃあ挽回出来るように、朱音の好きそうなコンビニスイーツでも買いに行こうか」
「やったぁ!」
大好きな甘いものとお酒を買って、今夜はたくさん話そう。
たくさん聞かせて欲しい。私を好きって言って欲しい。過去に対する嫉妬に飲み込まれてしまわないように。
一歩外に出ると空調の効いた快適な部屋とは違うむっとした暑さに顔を顰めた。
それでも恋人っぽいことがしたくなって、自分から遊人さんの手を取って繋ぐと、彼は少し驚いたあとに「彼女と手を繋いでコンビニ行くの初めて」と嬉しそうに笑った。