その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

だから…別れを切り出した。
そしてC健を離れる決意をした。彼に内緒でルー部長に異動願を出したのだ。

去年北海道の東側に新しく支部が出来たが、その関係で西支部が人員不足に悩まされているとのことだった。

北海道と聞いて未知の場所に慄きはしなかった。
離れるならいっそそのくらいの距離じゃないと、どこに彼を知っている人が居るか知れない。

すぐにでも行きたいと返事をして引き継ぎを済ませ、3月には東京を発った。



5月の今、北海道の桜は満開だ。
土曜日の今日はお花見をしに、マンションの近くにある大きな親水公園に来ていた。

「これ美味しい!」
「でしょ?俺の自信作」
「遊人さん天才!」

そう。北海道西支部に異動願を出したのは、私だけではなかった。
遊人さんもまた、同じタイミングで異動願を出して受理された。

異動の相談は一方的な別れ話を済ませたあと遊人さんに内緒でルー部長にしたはずなのに、彼は私の一枚も二枚もウワテだった。

『俺も北海道西支部に異動願出した』
『は?!そんなの通るわけないじゃん!』
『朱音と結婚するって所長と部長達に報告して、異動認めてくれないなら同業他社に行くって言ってきちゃった』

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