その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

出張健診部のフロアのキャビンには過去5年分の資料のバインダーが収納され、それ以前のものは地下3階の資料室に保管されている。

重大な個人情報なため最低10年は破棄することが許されず、年々契約する企業や学校が増えるため、このファイル整理だけでも一仕事なのだ。

なぜ一々プリントアウトするのかといえば、紙で医師会に提出する決まりだから。
すべて2部印刷して全く同じファイルを2つ作り、1つは医師会に提出、1つはC健で保管している。

なぜ医師会がデータではなく紙で提出を要求してくるのかは…私にはわからない。
ただ一職員の事務担当が口を挟むことも出来ず、長いものに巻かれて膨大な資料をちまちまバインダーに綴じていく。

フロアのキャビンに入り切らなくなったバインダーを段ボールに詰め、総務部から借りてきた台車に乗せてエレベーターで地下3階へ降りた。

一応暖房は効いているはずなのに、エレベーターが開いた瞬間ひんやりとした空気が肌を包む。ガラガラと台車を押して廊下を進むと、資料室の電気が付いていることに気が付いた。

私のようにファイル整理する以外には滅多に人が立ち入らないはずの資料室。

不審に思いながらドアを開けると、目に飛び込んできたのは書架の影で重なり合う2人の男女。


「……あ」

壁に背を預け足を投げ出して座るスーツ姿の男性の腰の上に、オレンジのステッチがポイントになっているスクラブ姿の女性。

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