その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

「ほら見てよ。しょんぼりしちゃったじゃん」

ナニがとは聞かないが、そんな報告をしてくる友藤さんに遠慮は無用と悟る。

「良かったじゃないですか、わざわざトイレで抜く手間が省けて」

もう仕事をしようと台車から段ボールを下ろしながら視線すら向けずに答えると、友藤さんは「ぶはっ!」と吹き出すように笑いながらようやく立ち上がった。

乱れたズボンを直してベルトを締めると、私が持っていた段ボールを代わりに上の段に上げてくれる。

「ここでいい?」
「…どうも」

急に距離が近付き、警戒心がぐわっと湧き上がる。

「事務の子だよね、少し前に入ってきた。俺、友藤遊人。名前聞いても良い?」
「嫌です」

友藤さんは私の胸元に視線を落とす。

しまった、入館証…。
慌ててネームホルダーを手に取るが、時既に遅し。

「朱音ちゃんね」
「中原です」
「これからよろしくね、朱音ちゃん」




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