その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
「どうやって探し当てたらいいの…!」
地下3階の資料室はひんやりと空気が冷たく、若干カビ臭い。
梅雨真っ只中のこの時期は、さらにじめじめとした空気が肌に纏わりつくような不快感がある。
スチール製の書架がしなるほど段ボールに詰め込まれたファイルが所狭しと並べられている資料室に、私の悲痛な心の叫びが声に乗って響く。
もう探し始めて3ヶ月になるというのに、一向に芳しい結果は見られない。
それどころか見分ける手段すらわからないままだ。
「もう経験人数を書いたカードを首から下げとく法律が出来ればいいのに」
ため息を吐きながら滅多に誰も来ない資料室で本音を零す。
すると「ぶはっ!」と吹き出すように笑いながら、書架の向こう側から人影が出てきた。
「それはぜひ否決されてほしい法案だね」
「間違いなく白い目を向けられるか刺されるかしますもんね」
「男からは羨望の眼差しだと思うな」
笑いながら飄々と告げる男に冷たい視線を送る。
きっと両手両足の指の数では足りないに違いない。私の手足を貸しても足りるのかどうか怪しいところだ。
それを自慢するわけではないが、恥ずべき事とも思っていないところが私とは相容れない考えの持ち主である。