その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
「その万年筆はさ、朱音ちゃんを選んだんだよ」
いつの間にか間抜けだった顔はしゃんと戻っていて、垂れた目が私を優しく見つめている。
「文房具屋でもなく、お姉さんの所でもなく、おばあちゃん家の引き出しの中でもなく、朱音ちゃんのもとにいたかったから今そこにある」
私のネームホルダーにぶら下がっている万年筆を指差し、たった今例え話だと聞いたはずの設定で話を続ける。
それが何を意味するのか、私は分からずに彼の瞳を見つめ返す。
「過去に誰かのものだったのは事実でも、その場所が違うと思ったから今朱音ちゃんのところにある。でしょ?」
何も言えず、ただ気圧されるようにこくんと頷く。
「だったら過去を気にするよりも、自分が選ばれたって思えばいい」
「……選ばれた?」
「過去に誰といた事実があっても、今現在自分が選ばれてるんだってこと。勝ち負けではないけど、開き直って過去に勝ってるって思えばいい」
これは…『Dの男』に拘っている私への恋愛アドバイスなんだろうか。
気にすべきとんでもない過去を現在進行系で更新中の友藤さんに言われてもピンとこないというのが正直な感想だったけど、私のことを考えて捻り出してくれた励ましの言葉だと思えば少し嬉しい。