その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
そう思って車で待っててもいいと言ったものの、朱音ちゃんは首を横に振って「大丈夫です」と言うばかり。
結局、大丈夫というものを無理に置き去りにすることも出来ず、営業車から降りて正面玄関から21階建てのビルに入った。
1階から4階は水瀬ハウスのショールームになっているらしく、大きなガラス張りの窓から燦々と太陽光が入りとても明るい。
程よく冷房が効いているエントランスを進み、横に長い受付のカウンターで来訪を告げた。
「お世話になっております。健康推進会中央健診センターの友藤と申します。8階スパークルの佐藤様と11時のお約束で参りました」
にこやかに挨拶をすると、以前来たときにも顔を合わせた柳(やなぎ)という可愛らしい受付嬢が対応してくれる。
「はい、では右手奥のエレベーターでお上がり下さい」
「ありがとう」
小さく会釈だけして奥へ進む。
以前の俺ならきっとこの可愛らしい受付嬢の誘うような視線に乗って笑顔を返し、連絡先くらいは貰ったのかもしれない。
清楚に振る舞っている子に限って肉食であることを身を持って知っているし、そんな子達を来るもの拒まずで頂いてきた。
しかし、今はなぜかそんな気が起きない。
その原因が、俯きがちにエレベーターに乗り込む彼女であると、否が応でも自覚し始めていた。