その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
彼が努力していないとは思わないが、天性の才能みたいなものを感じる。
当然ながら女性にも人気は絶大で、その営業スキルは女を口説くときにも発揮されているだろうというのは想像に難くない。
出会ってまだ1年も経っていないが、彼と関係を持っていたという女性を5人は挙げることが出来ると思う。
私が知らないだけで、おそらくもっと居るんだろう。
誘われれば来る者拒まずでお馴染みの彼の噂は、一緒のフロアに入れば嫌でも耳に入る。
私はここまで『名は体をあらわす』ということわざにピッタリな人に出会ったことがない。
彼の名前。遊人。
きっと親御さんは『遊び心のある人になってほしい』とか『人を楽しませる人になってほしい』みたいな意味を込めて名付けたんだろうけど。
今の彼を見れば、違う字をあてればよかったとご両親も嘆くに違いないと失礼ながら感じていた。
もういっそ小銭男(チャラオ)と改名したらいいのに。色んな意味でキラキラネームでぴったりだ。
「ほら、片付け終わったんならメシ行こ」
書架に入り切らず床に直置きで積まれている段ボールに寄りかかりながら、小銭男が私においでおいでと手招きをする。
「え、嫌ですよ。何でナチュラルに誘ってくるんですか」
「え?そこに可愛い女の子がいるから?」
「私は山か」
うんざりしながら友藤さんの軽口を躱す。