その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
言葉もない佐藤に先程渡した資料を回収し、逆に受け取っていたこのビルの見取り図をファイルから取り出し彼の方に押しやった。
「な…何言って…。もう契約書は交わしたはずです」
「ですから業務委託契約の解除通告書を後ほどお送りします」
「そんな勝手は困る!こっちはもう前の病院との契約は切れてるんだ!」
目に見えて焦りだした佐藤だが、そんなことは俺の知ったことではない。
「行こうか」と朱音ちゃんを促すと、彼女は戸惑いながらも立ち上がる。それを見た佐藤は逆上したように叫びだした。
「朱音!これがお前の仕返しなのかよ!」
向けられた男の怒声にビクッと身体を震わせた彼女を守るように肩を抱く。
「お前のせいで俺は営業から総務なんて地味な部署に飛ばされて、ヒステリックな女のお守りまでさせられるハメになったんだぞ!3ヶ月も付き合って1度もヤらせなかったくせに寝取ったなんて噂を否定もせず逃げやがって!おまけに契約解除だと?ふざけんな!」
あまりの暴言に思わず殴り掛かりそうになったところで、ようやく騒ぎを聞きつけた会社の上役が応接室に入ってきた。