その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

それは私が恋愛相手として求めているのが『Dの男』であり、初対面で人妻ナースとの情事をバッチリ見せつけてきた彼は恋愛対象外だと自分に言い聞かせてきたからに他ならない。

だからこの抱擁にドキドキするなんてことはないはずだし、そもそも抱き締められる理由もない。

再度抜け出そうと試みると、やっと友藤さんが腕の力を抜いた。

それでも両方の二の腕は掴まれたまま、近距離で見つめ合う。

雰囲気イケメンだなんてバカにしていたけど、この真剣な瞳に囚えられて一時だけでも彼に溺れたいと願った女性たちの気持ちが分かる気がした。

私が入所する前にいた事務の女性2人も、彼にハマってしまったせいで辞めていったと聞いた。

『朱音ちゃんはそんなことにならないでね?』と心配そうに言っていた遥ちゃんに『大丈夫、チャラ男は対象外だから』と豪語していたはずなのに。

いや、今もそう。もちろん対象外だ。
私が求めているのは『Dの男』なんだから。


「嫉妬って感情……、初めて知った…」

私の二の腕を掴む彼の手が震えている。
その震えが私の心にも伝染して、どうしようもないくらい胸が高鳴る。

だめだ。
言わせてはだめだ。

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