その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

「俺、たぶん朱音ちゃんが」
「気のせいです!」

自分で思った以上に大きな声が出た。そうでもしないと彼の言葉を止められないと思ったから。

友藤さんがどんな言葉を言おうとしたのかくらい、ウブな女の子なわけじゃないからわかってる。
抱き締める腕の強さとか、至近距離で見つめる真剣な瞳で、そう言われるんじゃないかという予感もあった。

だけど、聞くわけにはいかなかった。

友藤さんが考える『好き』という感情がどれだけ薄っぺらいのか、私はこの1年で嫌というほど見てきている。

女性に対してどれだけ不誠実な男なのか、過去に関係のあった女性がどれほどの数いるのか、私は知っている。

きっと彼の言う『好き』なんて、『カレーが好き』とか『夏が好き』というのと同義。もしくは『セックスが好き』というニュアンスかもしれないとさえ思う。

私はそんな食べ物や季節や性欲とごっちゃになった『好き』が欲しいわけじゃない。

そんな不純物しかない『好き』なんて聞きたくない。

万が一聞いてしまって、うっかりときめきでもしたら……。

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