その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
もうきっと私は立ち直れない。友藤さんだけには堕ちるわけにはいかない。
彼に堕ちた先にあるもの。それは嫉妬と独占欲にまみれて心が壊れていく未来…。
本気で彼を好きになればなるほど、私はきっと壊れていく。
だから聞きたくない。関わりたくない。
気のせいだと正気に戻って。今からでもあの受付嬢を誘いに行って。やっぱり友藤さんはクズで最低の男だって、私を安心させて…。
「自分になかなか靡かない女の元カレを見て、そんな気になってるだけですよ」
「…朱音ちゃん」
「知ってます?エベレストって登るのに許可が必要なんです。時間もお金もかかるし体力もいる。友藤さん、そんな過酷な山登りたくないでしょ?なだらかな丘をおすすめします」
いまだに掴まれている腕を手のひらで押しやるように外し、友藤さんが呆然としている間に助手席から降りた。
「さっきの受付嬢、可愛かったと思いますよ。胸はあのナースに負けるけど、若いし何回戦でも付き合ってくれそう。私は電車で戻るんで、お気遣いなく」
わざと思いっきり下世話な発言をした後お疲れさまでしたと声を掛けて、私は去年まで利用していた最寄り駅を目指し、唇を噛み締めて歩き出す。
先程まで晴れていた青空は、雨が降り出しそうなほど真っ黒な雲に覆われていた。