その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

スパークルに打ち合わせに行った日から2週間が経った。

火曜日の今日は親友の奈美の会社が月に一度のノー残業デーということで、仕事帰りに飲もうと約束していた。

オフィスビルが立ち並ぶ駅から歩いて数分のところに新しく出来た『calanbar(カランバル)』というカフェバーで待ち合わせ。
この店はカフェメニューがメインだが、店内に併設された簡易的なバーカウンターにドリンクを作ってくれるバーテンダーも常時いて、本格的なカクテルとちょっとした軽食も楽しめる。

奈美が『イケメンバーテンダー見ながら飲みたい』と言い出したのでこの店で軽く夕食を取ってから、2人でお気に入りのバーに移動することにした。


「へぇ、クズ男謝ってきたんだ。おせーよって話だよね。もう1人のバカ女は?」

相変わらず言葉遣いが悪い。慣れたとはいえ苦笑が漏れる。

奈美は中学の頃こそヤンキーみたいな外見をしていたが、今やファッション誌のモデルのようにスタイリッシュなモード系お姉さんになっている。

しかし口調だけは変わらず、美しい見た目と、口から零れ出る品位の欠片もない言葉のギャップが凄まじい。そんなところが好きだ。

それに、この言い草は散々悩み泣かされ退職にまで追い込まれた私を思ってのことだとわかっているので、敢えて何も言わずにいた。

「美香は謝らずにそのまま。会社も辞めたみたい」
「沢田洋司ってデザイナー、脱税で捕まったもんね。いい気味」

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