その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
「…まぁ、それと関係あるのかわかんないけど」
「それで?契約続行?」
「うん、そうみたい。もう私は関わらないようにしてもらってるから詳しくは知らないけど」
あの後、原田部長が賢治から業務を引き継ぎ、友藤さんと改めて打ち合わせをしたとルー部長から聞いた。
私宛に謝罪があったとのことだけど、もう賢治に会いたくもないし、友藤さんとも気まずいままなのでお気持ちだけでと面会を断った。
賢治は原田部長の温情でまだ会社にいるらしいけど、美香はあの騒ぎを起こした次の日から会社に来ていないらしい。
奇しくもあの2日後に父親の脱税が週刊誌にすっぱ抜かれ、たぶん今はそれどころではないだろう。賢治と婚約という話も彼女が一方的に言っていただけの嘘だったらしい。
ふう、とひとつため息をつくと、手元のカルーアミルクに口をつけた。今はこの甘さが私の心を癒してくれる。
「あんなに悩んでたのに、どうでもよくなっちゃった」
「ふーん。それって例のチャラ男のおかげ?どうでもよくなったって割りに浮かない顔してるけど」
「えっ」
相変わらず奈美は鋭いところを突いてくる。
元職場に行って色んな事が吹っ切れたのは事実だ。後味悪いまま退職して、あのビルの最寄り駅を使うのも怖かった。私の噂を知っている人に会うんじゃないかって不安だった。
だけど思わぬ形で幕引きとなった。