その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

ガチャンと閉められた内鍵の音が室内に大きく響いた。

スパークルの駐車場で起きたあの出来事は、何度も私の脳裏を掠め、思考をかき乱した。

頬に触れた熱い手。抱き寄せられた広い胸。私を囚えて離さなかった力強い腕。二の腕を掴んだ震える指先。


『嫉妬って感情……、初めて知った…』


苦しそうに、でもどこか嬉しそうに伝えられた言葉。泣き出しそうな表情。思い返すだけで身体中が熱を持ち、顔を覆って蹲りたくなる衝動に駆られる。

それと同時に、この資料室で見た初対面の時の光景が脳裏に鮮明に蘇り、冷水を浴びたように一気に熱が冷めていく。

こんなことを何度も繰り返していては、いつか本当に気が触れてしまうと感じた。

この2週間出来るだけ顔を見ないように、営業のホワイトボードをいつも注視していた。
彼がいつ所内にいるのか。彼が外回りの日はデスクに齧りつき事務作業を最速で終わらせ、所内にいる日は何かしら理由をつけて私はフロアを出ていた。ちょうど下の検査科から事務のヘルプを頼まれていたので渡りに船だった。

今週は営業もお盆前でデスクワークが多かったらしく、ボードに書き込まれているのは内勤の文字ばかり。

そのせいで私は今週この地下の資料室に籠もりきりになり、あの嫌な残像に悩まされながら重いファイルをいくつも書架に並べていった。

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