その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
「可愛い格好して。大変じゃない?手伝うよ」
「いえ、もう終わったので帰るところです」
「……デート?」
手伝うと言いながら扉に背をつけたまま動こうとしない。
いつもの友藤さんとは様子が違う。彼は片手をポケットに突っ込んだまま、反対の手で乱暴にネクタイを緩めた。
へらへらした人当たりの良い、胡散臭い笑顔がない。
睨むようにこちらを見つめる意図がわからないが、私だって怯まずに睨み返すくらいは出来る。
「関係なくないですか?」
「見つかったの、Dの男」
これは言うまで扉の前から動かない気だ。
面倒くさいと思いつつ「これから探しに行くんです」とぶっきらぼうに答えると、鋭かった視線がさらにキツくなり、眉間に皺を寄せた。
「まさか…、合コン?」
「アパレルに勤めてる親友が私のために開いてくれる食事会です。オシャレなイタリアン、羨ましいでしょ」
どんな意味の込められた食事会なのは敢えて言う必要もないだろう。
いい加減私だって前に進みたい。
奈美の言う通り、少しくらい遊んだってバチは当たらない。
そんな思いから、どこか挑発するような口調になった。
「ここから40分はかかるんです。この時間電車も混むからスムーズに乗り換えられるとは限らないし。遅刻したくないので、そこどいてもらっていいですか?」
「何考えてるの。その日会ったばかりの女をヤろうとしてる男ばっかりだよ?童貞なんているわけないし、君みたいな子が行くところじゃない」