その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
友藤さんの舌が私の弱いところを刺激して、快感を引きずり出そうとする。その度に鼻から抜けた声がわずかに漏れる。頬の裏、歯列、上顎まで彼に蹂躙され、巧みなキスを受け続ける。
身体に力が入らず、真っ直ぐ立っていることさえ難しい。頭がぼーっとして、このまま溺れてしまいたいと本能が告げてくる。
一体どれだけの女性がこのキスの虜になったのか。
そう思考を働かせる理性が残っていたのは、幸か不幸か。
子供だましじゃない、大人の官能的な口付け。
明らかに女慣れしている、相手を気持ちよくすることを目的としたキス。
苦しくて、悔しくて、気持ちよくて、でも気持ち悪くて最低な気分。
生理的な涙だけではない、もうどんな感情で流れてくる涙なのかもわからない雫が、瞳からぼろぼろと溢れ出て2人の頬を濡らす。
その冷たさに怯んだ一瞬を見逃さず、私は貪ってくる唇に噛み付いた。
痛みに顔を顰めた彼の手首の拘束が緩くなったのを狙って、右手を素早く自分に引き寄せると、思いっきり振りかぶって全力で彼の頬に向かって振り下ろした。
バチンと乾いた音が静かな資料室に響き渡る。エアコンのせいだけではないひんやりとした空気が辺りを包んでいる。
肩で息をする私の手のひらはジンジンと異常な熱を持っていて、叩かれた友藤さんは半歩下がるとその場に座り込んだ。