その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
「……これが…独占欲か」
友藤さんが血が滲む自分の唇を親指で拭い、苦しそうに呻いて顔を伏せる。私は何も言えず、息を整えながらただ呆然とその様子を眺めるだけしか出来ない。
「……君が好きだ」
俯いたままの告白。こちらも見ようともしない。
そんな友藤さんの様子が、なぜだか彼の本気を示しているような気がした。
私も、たぶん彼が好きだ。
目の前で項垂れている男に惹かれてしまっている。なんとかギリギリのところで留まってはいるけれど、もうたぶん誰かに小指で押されても彼に堕ちる。
だからこそ離れなければ。この先に明るい未来はない。
「…本当に少しでも私を好きなら、もう私に構わないで下さい。私が探しているのはあなたじゃない。私は誰かの『唯一』になりたいの」
それだけ告げて足早に資料室を出た。彼の姿を視界に映さないよう、終始顔をそむけたまま。
台車を置いてきてしまったけど、もうあの部屋に引き返すことは出来なかった。