その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

『恋』というものをしたことがない。

生まれた時からそういった感情が欠落していたのか、母が知らない男の上で腰を振っているのを幼い頃に見てしまったのが原因なのか。

学生の頃に友人たちが彼女を作るのを見ても、羨ましいとは思えなかった。

俺が女に求めるものは恋愛でも癒しでもない。ただ性的な欲求を満たす束の間の相手。
それも特段自分から欲することもない。誘われたら乗るだけのこと。なくても全く困らないものという認識だった。

可愛いとか綺麗という一般的な美的感覚はあっても、それがその人物を特別に押し上げるかといえばそうじゃない。
どれだけ綺麗だろうが可愛かろうが、ただそれだけ。
ひとりの女を特別だと思ったことは1度もなかった。


それをあっさりと覆したのが朱音だった。

彼女が以前働いていた職場で元カレを知り、言いようのない醜い感情に襲われた。

あんな男を想って辛い顔をしているのが許せないのと同時に、彼女は俺の過去を知っていても少しも気にしない関係なんだと目の前に突きつけられた気がして、頭が沸騰しそうなほどイライラした。

過去を責められてもどうしようもないし、クズだと言われても言い訳のしようもない。そうわかっているのに、元カノにすら嫉妬してもらえる関係だった男が憎くて羨ましくて妬ましかった。

その感情は今までに経験したことがないものでも、朱音の悩みの種であった『嫉妬』や『独占欲』と呼ばれる類のものであることはわかる。

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