その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

誘われない限りそういった行為をすることがなく、過去にも仕事で余裕がない時は1年半以上間が空いたことだってある。
しかし思い返してみれば、この半年は誘われるのすら避けるように行動していた。
行きつけのバーに行くのも控えていたし、職業病である無駄な笑顔を振りまくことも減ったように思う。


告白もさせてもらえなかった情けない出来事から2週間。
彼女は分かりやす過ぎる程に俺を避けた。

8月は学校が夏休みで一切健診が入らないのと、お盆休みの前後にわざわざ健診を入れたいという企業も少なく、事務はほとんど所内にいる。

営業は特に関係なく外回りは行くものの、さすがにお盆前の週は普段溜め込んでいる領収書を整理して経理に回したり、急ぎでない契約書を作ったりとデスクワークが多くなる。

いつ捕まえて話の続きをしようかと機会を窺っているのに、朱音は俺が所内にいる日は何かと理由をつけてフロアに姿を見せない。

下のフロアの検査科や看護科も医師会に提出する書類がさばききれておらず、たまに彼女がファイリングを手伝いに行っているのだと小柴部長が言っていた。


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