その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
それを悟られまいと必死に軽蔑したような冷たい眼差しを向けて、私に関わってこないでと一線を引く。
そして頭の中に、自分が彼に惹かれてはいない証拠を並べ立てる。
だって最低最悪な初対面だった。誘われれば来る者拒まずのクズ男で、ランチ代だと軽々しくキスをしてくるようなチャラ男。
私が求めているのはその人の『唯一』になれるような恋愛。
だから絶対にあんな人に惹かれるわけがない。
そうやっていつも意識してきた。
現場に来るたびに差し入れを持って挨拶に回る仕事熱心なところも、いつもさりげなく一番重い段ボールから片付けを手伝ってくれる優しさも、自分は食べないのにランチの時はいつもデザートセットを頼むところも。
ずっと見ない振りをしてきた。
なのに、あの日。私の元職場で醜い修羅場を演じそうになったあの時。
あんな風に庇われたら、誰だって心が勝手に彼に引き寄せられてしまう。
そっちじゃない。その先にはボロボロになって泣く未来しかない。
そうやって心の手綱をしっかり持って、なんとか堕ちてしまわないように耐えてきたというのに。
小指で突かれても堕ちる。
自分ではそう思ってたけど、もうとっくに堕ちているのかもしれない。