その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

「やっと見つけた…!」

驚き振り向いて見上げた先には、ほんの数時間前まで所内で一緒にいたはずの友藤さんが、息を切らして私を見下ろしていた。

いつもイケメンに見せるためにチャラさ満載でセットされている髪は乱れ、スーツの上着を皺になりそうな持ち方で掴み、へらへらした笑顔は封印して瞳に鋭い光を宿している。

「な…、なんで、ここ…」

なんでここがわかったのか。
なんでここに居るのか。

聞きたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。

私の戸惑いをよそに、彼はあらかじめ用意していたであろう1万円札をポケットから裸で出して私が座っていた席に置くと「この子、連れて帰らせてもらいます」と宣言した。

友藤さんは椅子の背に置いていた私の鞄を持つと、すぐに踵を返し歩き始める。
この集まりを開いてくれた奈美にも、呆気にとられた他の人達にもきちんと挨拶をすることすら出来ず、そのまま掴まれた二の腕を引かれお店から連れ出されてしまった。


なんの説明もなく、無言のまま進んでいく。
一体どこに向かっているのかもわからない。
足がもつれそうになりながら、それでも振り払うことなく彼についていく自分。それが答えなんだと心が叫んでいた。

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