その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

しかし事務として入所したのに、まさか出張健診の現場にまで駆り出されるとは。

ルー部長に言わせれば『コンセンサスは得ているはずだよ』だそうだ。

朝早くに会社に集合し、検診車に乗って現場に向かう。

もちろん私は医療系の資格などは持っていないので、採血や血圧測定、心電図、レントゲンなどは看護師や検査技師が行う。

私達事務の現場での一番の業務は受付でする受診票の読み込み。受診票と社員番号を同期させて管理するので間違うわけにはいかない、単調だけど緊張する仕事。

他に身長や体重を測ったり、簡単な視力測定、問診票の記入漏れのチェックなど、特別な資格がなくても出来る業務を担当する。

予想外とはいえ、今まで知らなかった職種に触れるというのは楽しい。
働くのは嫌いじゃない。未知の健康診断というものを勉強するのも奥深くて面白い。

それに白衣を着られるのも、着ている男性を見るのも楽しい。若干不謹慎だけど。

慣れないうちは私よりも半年ほど早く入所している事務バイトの瀬尾遥(せお はるか)ちゃんが助けてくれた。
くりっとした瞳がとても可愛らしい小動物系の見かけによらずとても仕事の出来る子で、周りからの評判もとても良い。

人見知りなのか最初はよそよそしくて仲良くなれるか不安だったけど、私の2つ年下の彼女は今や休日にも約束して出掛けるほど仲の良い友達になれた。


< 9 / 110 >

この作品をシェア

pagetop