その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

私は小さくこくんと頷いた。隣で不安そうに見ていた友藤さんが大きく目を見開く。
そして私の二の腕を掴んでいた手がするする手首にまで下りてくると、泣きそうな表情で私を見つめたままぎゅっと力が込められた。

堕ちた先が嫉妬に狂う未来でも、やはり私は自分が好きになった人としか恋愛は出来ない。

いくらイケメンでも、経験豊富で優しくリードしてくれる素敵な人でも、土壇場でついていくことは出来なかっただろう。

仮に今日あの場に私の求めていた『Dの男』がいたとしても、きっと友藤さんを選んでいた。


「わかった、朱音がそれでいいなら」
「奈美、ありがと」
「おいチャラ男!」

突然自分が不躾なあだ名で呼ばれ苦笑しながら初対面の相手を見やった友藤さんに、奈美は相変わらずの口の悪さで彼に釘を差した。

「朱音を泣かせたら、その躾のなってないモン引っこ抜いてドブ川に沈めるから!」

見かけはモデルのような奈美から発せられるとんでもない忠告の言葉に、友藤さんはひゅっと身体を竦ませた。引っこ抜かれる想像でもしたんだろうかと少し笑ってしまった。

それから彼は指を絡めて私としっかり手を繋ぐと、奈美に向かって大きく頷いた。

「肝に命じておくよ」
「ついでに朱音を気に入ってた岡部さんに速攻引き渡すから」

脅しとも取れる奈美の発言に、友藤さんのこめかみがピクリを動いた。

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