その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

◇◇◇

タクシーで連れられてきた友藤さんのマンションは8階建ての5階で、シンプルな1LDKの間取り。
通されたリビングは急な訪問だったにも関わらず意外と散らかっていない。むしろきちんと整頓されている。

黒い布張りのソファの上には同じ布のクッションしか置かれていないし、ローテーブルに朝飲んだコーヒーカップが置きっぱなしなんてこともない。
丸いダイニングテーブルに乗っているのは今朝読んだであろう新聞だけ。完璧か。

私だったら絶対ムリだ。玄関先で「10分待ってください」と慌ててクローゼットに諸々押し込む時間が必要不可欠。この違いはなんだろう。


…部屋を片付けてくれる女性がいるんだろうか。


「……今、誰が片付けてるんだろうって考えたでしょ」
「あ、バレました?」
「俺、家事得意だから」
「もう少しマシな言い訳考えた方がいいですよ?」
「こら」

おでこを人差し指で小突かれる。
それはイケメンしかやっちゃダメな仕草だと思うんだけど、今のはちょっとイケメンに見えたから許す。

おでこをさすりながら友藤さんを見上げると苦笑いの彼と目が合った。

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