その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
……え。ほんとに?ほんとに家事が得意ってこと?ここまで自分で綺麗に保ってるってこと?
私の疑問が全部顔に出ていたらしく「俺って本当に信用ないんだな」と吹き出すように笑った友藤さんは、「アイスコーヒーでいい?」とキッチンへ向かった。
その間にソファに座ろうと思ったものの、ここに座ったことがある女性は私で何人目なんだろうと早速くだらない嫉妬が首をもたげてくる。
気にしない。万年筆の例え話をした時の彼の言葉を借りるなら、少なくとも今だけは私は『友藤さんに選ばれた』んだから。
そうは思ってもなかなか座れないでいると、グラスからカランと氷の音を立てながら彼が戻ってきた。
「座らないの?」
「いや、えと、座ります…」
不思議そうな顔をした友藤さんは両手に持っていたグラスをローテーブルに置くと、私の背中に手を添えて一緒にソファに腰を下ろした。
こんな何気ない場面でのエスコートさえ女慣れしている感が滲み出て、私の心を蝕んでいく。
でもこれは私が選んだ道。
こうなることを分かっていて、私は彼についてきたんだ。
グッと握りこぶしを作って胸の前に掲げる。気合を入れておかないと、彼の過去に負けて早々に心が死んでしまう。