その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~


「あー、何から話そうか」

友藤さんがなぜか照れながら戸惑っている。なんだか今日は珍しい彼をよく見る気がする。

とりあえず気になっていた『なぜあの店がわかったのか』という質問には、『C健から電車で乗り換え40分、近くにホテルのあるイタリアンで片っ端からしらみつぶしに。3軒目で見つかってラッキーだった』と苦笑しながら教えてくれた。

「こういうの初めてで…どうしたらいいのかわかんないんだ」
「なんですか、こういうのって」
「俺、朱音ちゃんが初恋だって言ったら信じる?」
「………は?」

やっぱり彼について来たのは間違いだったかもしれない。
こんな見え透いた嘘を口説き文句にするなんて、バカにするのも大概にしてほしい。さすがにそんな子供騙しにときめく程、私の恋愛偏差値は低くない。

初対面以来の冷たく軽蔑した視線で彼を見る。
しかし彼はそれに怯むことなく、いつもみたいにへらへら笑って躱すこともなく、真剣な瞳で見つめ返してきた。

「今から俺が言うこと、最初は全部信じなくてもいい。今すぐに信じてもらえるとも思ってない。でも誓って朱音ちゃんに嘘はつかないから」


それから友藤さんから語られたことは、なんだか現実とは思えないような話だった。

「お母さんのアレな所見て、恋を知ることなく成長して、女は全部性欲処理の相手としかみてないって…。そんな生徒会長が出てくる少女漫画読んだことある気がする…」

アホみたいな感想しか出てこない私に、彼は笑いながら汗をかいたグラスを持って喉を潤している。
私も落ち着くためにそれに倣ってグラスを両手で持ってアイスコーヒーを飲んだ。

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