その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

彼のご両親は地方で病院を経営しているらしいけど、医者にならなかった友藤さんに見切りをつけて今は疎遠らしい。

彼の女性に対する不誠実さはもしかしたらお母さんのことがトラウマみたいになったのかもしれないけど、それにしたって1人くらい本気になったり心惹かれる女性はいなかったんだろうか。

嫉妬心からというよりは純粋に疑問に思って聞いてみると「これがホントに1人もいないんだよね。最低だとは思うけど、顔と名前を覚えてる子もあんまりいない」と気まずそうに教えてくれた。


「朱音ちゃんが初めてだった。よく視界に入ってくるなって思って、気付いたら構いたくなってた。あんなとこ見せておいて言い訳なんか出来ないけど、『恋人』がいたことは1度もない。朱音ちゃんが初めての彼女だよ」
「…このソファに座ったことある人って」

この質問をしたことで、さっきなかなか座らなかった私の気持ちがわかったんだろう。グラスを私の分もテーブルに置くとぎゅっと抱きしめてきた。

「1人もいない。朱音ちゃんだけ。女を家に呼んだことなんて1度もないよ。もちろん逆もない。今まで女と会う目的は…まぁ…ソレだけだったから、パーソナルスペースなんか絶対知られたくないし、知りたくもなかった」

言ってることは本当に最低なのに、なぜ私は少しだけ安心してるんだろう。
きっとあれだ。普通の人が煙草のゴミを拾ったところでたいして褒められもしないのに、ヤンキーが携帯灰皿に吸い殻を押し込んでいるのを見るとやたら良い人に見えてしまうあの現象だ。

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