その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

「…部屋の掃除、ほんとに自分でしてるんだ」
「だからそうだって言ったでしょ」

部屋に来て早々疑っていたことの誤解がやっと解けたと、今日何度目かの苦笑いをした気配がした。

「昔の男を見て嫉妬したのも、合コンに行くって聞いて独占欲が抑えきれずに無理矢理キスしたのも、なりふり構わず迎えに行ったのも、朱音ちゃんだったから」
「……うん」
「好きだよ、朱音ちゃん。君だけだ、俺に『恋』を教えてくれたのは」

抱きしめられたまま彼の告白を聞く。
温かい胸に包まれても、心の片隅に巣食う『この体温を何十人という女性が知ってるんだな』って気持ちはまだ無くならない。

それでも、私は彼を選んだ。


「絶対、友藤さんを好きになりたくなかった」

髪を優しく撫でる手がピタリと止まる。
私は寄り添っていた彼の胸の中から起き上がって、きちんと膝を合わせるように向き合って座り直した。

「あんな現場見たし、最初は本当に嫌いだと思ってたのに。いつの間にかDの男を探すって宣言して明確に対象外にしておかないと、惹かれていく自分が怖かった」

でも無意味だった。結局私も『こんな男に靡く女の気が知れない』と思っていた数多の女性達と肩を並べてしまったのだから。

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