2人のあなたに愛されて~歪んだ溺愛と密かな溺愛~【リニューアル版】
「ねえ、明日、ちょっと話があるから付き合って」


妻からの誘いなんて何年ぶりだ?


「ああ」


「行ってきます」


妻が、元気のない声でつぶやいた。
ドアを開けて出ていく背中が、とても小さく見えた。


「……」


あいつと出会ったのは夜の街。
お酒の勢いに任せた一夜のつもりだった。
なのにお互いなぜか離れられず、のらりくらりと関係を続けて……今に至る。


そう、俺たちは本当の夫婦ではない――


妻と呼ぶのは、会社での体裁を考えてのことだった。
気づいたら、いつの間にかこんなことになって。


明日、いったいどこに行くって言うんだ。


次の日、昼過ぎに目覚めると、もう妻は支度を済ませて待っていた。


「なんだよ、その荷物」


小さめの旅行カバンに思わず目がいった。


「運転するから」


そう言うと、着替えを急かされ、車に押し込まれた。
俺、まさかこいつに殺される?


このバックの中には……


なんてことを考えてるうちに、1時間半くらいか、車は旅館に到着した。
< 253 / 264 >

この作品をシェア

pagetop