お前の隣は俺だけのもの。
「陽菜さん」



凛ちゃんは柔らかい笑みを浮かべていた。



「私、授業を抜け出したこと、1度もないんです。……一緒に“サボり”というものに付き合ってくれませんか?」



凛ちゃんらしい言葉だった。

やさしくて、あたたかい言葉だった。

私の涙腺がさらに緩む。



「凛ちゃんー……っ」




涙をこぼす私の背中をさすってくれる凛ちゃん。

友達の温もりを久しぶりに感じた気がする。

泣き止まない私の手を握って、歩き出した凛ちゃん。

着いた場所は、文芸部の部室だった。



「ここなら、人目気にせずお話が出来ますね」



こくん、と首を縦に振る私。

凛ちゃんが定位置に座ったので、私も凛ちゃんの近くの椅子に座った。



「……なんで泣いていたのか、話せますか?」

「うん」



私は少しの時間、言葉を考えた。


なんで涙をしていたのか。

それは。



「……守りたい、大切な人がいるんだってさ」



碧の言葉を思い出す。


『守りたい奴がいるから』


きっと、“守りたい”と思える女の子は、私の知らない人。

碧の中に私は踏み込めないんだと思った。
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