お前の隣は俺だけのもの。
「今から話すことは独り言だから」

「うん」



碧はうつむいたまま、呟くように話し始めた。



「芸能界の仕事は楽しい。刺激は沢山あるし、勉強にもなる」

「……」

「やりたいことをさせてもらっている」



芸能界で活躍する碧。

俳優としてドラマ出演、雑誌の表紙も飾っている。



「だから、芸能界の仕事は続けたい」

「うん」



碧の仕事へ対する気持ちを、私は初めて聞いたと思う。

少し驚いた。

碧のまとっている空気は暗いけれど、それだけ芸能界への思いが伝わってくる。



「そんな俺が、暴走族総長をやっていいのか、って思う」



碧が私の視線をとらえる。

その瞳は揺れていて。

私は言葉を詰まらせた。



「龍虎も大切にしたい。守り続けなきゃならない」



碧の視線が私をとらえる。

碧の瞳が揺れているように、私の瞳も揺れていると思う。


だって。

碧が“龍虎”を大切にしたい理由はきっと。



「大切な子がいるから。総長を続けたい」



……大切な子。


心に鉛が落ちたような感覚だった。


碧が言う“大切な子”って誰?

芸能界の人?

それともクラスメイトとか?

私の知っている人?

それとも私の知らない人?


喉まで出かかった言葉を必死にこらえる。
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