お前の隣は俺だけのもの。
「仕事も総長も、両方やりたい」

「……」

「だけど、両立することが難しい。暴走族のことが世間に知られたら、仕事も辞めざるを得ない」



それは……。

確かにそうかもしれない。


私でさえ、“暴走族”と聞いて、偏見を持ってしまった。

碧が暴走族の総長、というニュースが流れたら、世の中はざわつくと思う。

それだけで済むならいいけれど。


多分。

碧の言うとおり、確実に仕事は失うだろう。

碧が抱えていた悩みは私の言葉でなんとかなるものじゃないと思った。

一般人で平凡な私が口を出せることじゃない。


……何も言えない。

そんな私に気がついたのか、碧は痛々しいくらいの笑顔を見せた。



「独り言だから」



そう言って、立ち上がった碧の背中を見つめる。


あの背中に、どれだけ大きなものを抱えているんだろう。

……碧に“大切な子”がいなければ、総長をやめて芸能界の仕事に集中できたの?


思ってはいけない感情が、私の心の中を占める。


そんな自分が嫌いだ。

碧を応援したいのに。

素直に応援できない私は、心が汚れているのかもしれない。
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