お前の隣は俺だけのもの。
怜央と潤が『後悔するな』と言っていた意味がようやく分かった。

今更、遅い。


私の瞳から、大粒の涙があふれる。

静かに頬を伝い、流れ落ちる。

本当は今すぐ、この場を立ち去りたい。

だけど、撮影中に物音を立てることが出来ない。

そう思うと、この場に立ち尽くすしかなかった。


目の前で行われているドラマ撮影。

涙で視界がぼやける。


右手で涙を拭おうとしたそのとき。

右手が温かいものに包まれた。

隣を見れば、怜央が微笑んでいた。

私の手をそっと握って。


左手に温かいものが触れる。

ゆっくりと割れ物を包むように、やさしく手を握ってくれたのは、潤だった。

私の両側には、私を守ってくれる2人がいた。


私はその手を握り返し、なんとか撮影終了まで見届けることができた。



「今日の撮影は終わり!」



監督さんの言葉にそれぞれが片づけを始める。

碧はミクさんと話しているようだった。

時折、見せる笑顔。

ミクさんも頬を染めながら笑っていた。


その光景を眺めていると。

碧がふと視線を移したのが分かった。

バチッと、碧と目が合う。

思わず目をそらす私。


今は、碧の顔をまともに見ることができない……。
< 95 / 154 >

この作品をシェア

pagetop