お前の隣は俺だけのもの。
「帰ろっか」



私は精一杯の明るい声で、怜央と潤にお礼を言う。



「今日は連れてきてくれてありがとう」

「陽菜ちゃん……」

「念願が叶って嬉しかったよ!」



いつもより1オクターブ高い声。

そうでもしないと、笑えなくなってしまうから。

碧のことで頭がいっぱいになってしまうから。

私は私で演じるんだ。


帰ろう。

そう呟いて、私は握ってくれていた2人の手を離す。

そして、1階へ続く階段を下りようとしたとき。

階段の下で息を切らして立っていたのは、碧だった。



「陽菜っ」

「……碧」



碧が階段を駆け上がってくる。

その顔は、今にも泣きそうだった。

なんで碧が泣きそうになっているの。



「いつから来ていた?」



私の目の前に立つ碧は私に問いかける。



「最初からだよ」



笑顔を作る私。

うまく笑えているのかな。

笑えていないかもしれない。

だって、私は女優さんでもなんでもないから。


はあ、と大きくため息をつく碧。

それから私の腕を掴んで、その胸の中に私を引き寄せた。
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