先生がいてくれるなら③【完】
「彼女は──明莉さんはとても頑張ってくれたよ。お前のためにね。この数ヶ月間、地獄の苦しみだったと思う。だけど、泣き言一つ言わず、高峰さんに向き合っていた。落ちてしまった成績も最近は元に戻っているだろう? とても頑張ったよ。彼女は本当に強くて優しい女性だね」
放心状態の俺に、親父が声をかけた。
確かにあいつの成績は二年の3学期以降、ひどいものだった。
俺が教えた数学だって、前は出来ていた所も3学期の学年末テストはほとんど全部間違っていて……平均以下どころか、赤点以下だった。
急に成績が落ちたヤツは呼び出して事情を聞いたり、場合によっては教えたりしてるけど……立花のことは呼び出したりせず完全に放置してた。
事情を聞く気にもならなかったし、そもそも、もう関わりたくなかったと言うのがその時の本音だったから。
「でも、もう成績もだいぶ元に戻ってるでしょ?」
光貴の言葉に俺は渋々、小さく頷いた。
二年の学年末、三年一学期の中間と、あいつの数学は見るも無残な成績だったが、一学期の期末テストは平均点以上の成績に戻していた。
あまりの飛躍ぶりを不思議に思い、あいつの担任の島崎先生に化学の成績を尋ねたら、それも同じように赤点以下から平均点を越すぐらいまでは戻ってると言っていた。
恋愛とか遊びにうつつを抜かしていたけど、やっと諦めたか、……なんて思ってた。
「困ってることは無いか尋ねたら、勉強に困ってるって言うから……父さんが家庭教師をつけたんだよ」