先生がいてくれるなら③【完】
──あぁ、だからか。こればかりは納得だ。
親父の教え子には家庭教師に向いてる人間が山ほどいるだろう。
それこそ、医学部を目指す高校生のための塾講師や家庭教師なんてのもいるはずだ。
親父が一声かければそう言う人間がいくらでも集まることは容易に想像できる。
この人は俺と違って、きっと人望もあるのだろう──そうでなければ大学病院のナンバー2になんてなれはしない。
「さて、もう時間も無いから、終わりにしよう」
──そう言ったのは、親父だった。
俺はこの人のこの言葉を、次の仕事が控えているから、と捉えていたのだが──
「そろそろ明莉さんを迎えに行く時間だ。たくさんお礼とお詫びをしておくように」
親父の口から、そんな言葉が滑る出る。
「──は?」
予想もしなかった言葉に、俺は間抜けな声を出した。
「……兄さん、今日は何の日? 一年前の今日って、何の日だったか覚えてないわけじゃないよね?」
弟に怪訝な顔でそう言われ、俺は去年の今日に思いを巡らせた。
「……」
去年の今頃は、確か……。
「……あっ」