先生がいてくれるなら③【完】
立花の、お兄さんが亡くなった日────。
「うん。早く行ってあげて」
光貴に促され、俺は慌ててソファから立ち上がる。
親父の方に目線をやると、うん、と頷いていて、岩崎に至ってはニコニコと相変わらずインチキ臭い満面の笑みで手を振っていた。
俺は親父に視線を合わせて「また連絡します」とだけ言って、急いで車へと向かう。
立花のお兄さんの命日──。
あいつは多分今頃、墓地にいるんだろう。
親父はそれを見越して俺を病院に呼びつけた。
きっと時間まで計算してあったに違いない。
「やられたな……、」
やっぱり親父はすごいな、と思い知る。
何もかもが親父の思い通り、計算通りに事が運ぶ。
そしてそれは、常に間違いが無い。
俺はあの人に、きっと一生太刀打ち出来ないんだろう。
悔しく思うと共に、あの人に育てられたことを、今はほんの少し誇りにも思えるようになって来た。
──ありがとう、親父。