先生がいてくれるなら③【完】
お兄ちゃんが亡くなってちょうど一年。
私は命日のこの日に、お墓参りに来ていた。
──お兄ちゃん、終わったよ……。
今までも月命日には出来るだけここに来ていて、私は日々の出来事をお兄ちゃんに報告していた。
先生に告白したこと、先生と付き合うことになったこと、先生と出かけたこと、先生と別れたこと……。
ほとんどが先生のことで、お兄ちゃんあっちで呆れてるかな。
──お兄ちゃん、全部、ちゃんと終わったからね。
ボイスレコーダーの録音と先生との動画を全て消去出来たことを、私はお兄ちゃんに報告した。
ジリジリと照りつける日差し、蝉の鳴き声──。
夏になったばかりの熱気を帯びた風がふわっと吹いて、お兄ちゃんが『頑張ったね』って褒めてくれた、そんな気がした。
お墓参りを済ませて、私は墓地を後にする。
すると、出口付近の駐車場に見慣れた車が止まっているのが見えて……。
運転席のドアが開き、予想通りの人物が姿を現した。
────先生。
恐らく光貴先生や藤野教授から何かを聞いたのだろう。
やっぱり二人に口止めしておけば良かったかも知れない、それでも話してしまったかも知れないけれど。
先生の横を通り過ぎなければ、私は帰路につけない。
心の中でこっそりため息を吐き、やむを得ずそのまま歩みを進める。