先生がいてくれるなら③【完】
だけど──
もうそこは私の居場所では無い。
私はそっと先生の身体を押して、一歩後ろに下がった。
「立花……」
先生の問いかけに、私は首を横に振るしか出来ない。
私は小さく会釈をして、横を通り過ぎる。
すぐに「立花、家まで送るよ」と声をかけられたが、私は一瞬だけ立ち止まり、また静かに首を振り、「バスで帰りますから……」そう言い残して、私は振り返ること無くその場を後にした──。
墓地から私の家まではバスを一度乗り換える必要がある。
私はバスを乗り継いで帰路につく──つもりだったけど、真っ直ぐ家に帰る気分になれず、墓地の最寄りでバスに乗り込んだまま乗り換えること無く……そのまま終点まで来てしまった。
少し歩くとすぐに海に出る。
公園として整備はされているけど、そこはコンクリートで覆われ尽くした無機質な岸壁が続いていて、先生に連れて行ってもらったような、自然の美しさが残るあの海岸とは対照的だ。
梅雨明け直後の夏の日差しが容赦なく照りつけ、水面が眩しいまでに光をギラギラと反射させている。
私はフェンスの前に立ち、ただぼんやりと海を見つめた。
暑い。日傘ぐらい持ってくれば良かったかな。