先生がいてくれるなら③【完】

「先生はまだ明莉のことが好きなのかも……」


美夜ちゃんがそっと私の手を握りながらちょっと涙目で言うから……私もうっかりもらい泣きしそうになってしまう。



「ねぇ、明莉。明莉だって今も藤野先生の事、好きなんでしょ? なんで別れたの?」


椿の質問に一瞬高峰さんの顔が頭に思い浮かんでしまい、私は答えることが出来ない。


本当のことは、言えない……。


美夜ちゃんにも悠斗にも市橋君にも、別れた理由はほとんど何も言ってなかった。


私から別れを告げたことだけしか……。



「あのね……」


私は言葉を慎重に選びながら、話し始めた。



「そもそも私が先生に告白したんだよ、『好きです』って。どうしても気持ちを伝えておきたくて。でも、その後のことは何も考えてなかったの、ホントに。ただ伝えたかっただけなの」



私の言葉に深く頷いたのは、美夜ちゃんだけだった。


私があのタイミングで先生に告白した本当の理由を知ってるのは、美夜ちゃんだけだったから。



監禁された、あの時──、私は死をも覚悟した。


その上で、もし生きて出られたら、今までちゃんと伝えてこなかった私の本当の気持ちをみんなに伝えなきゃ、って思ったんだ。


お父さんやお母さん、美夜ちゃんや悠斗、市橋君たち数研部員のみんな、そして……藤野先生に、私の気持ちを……。



だから、私は先生に気持ちを伝えたけど、そこから先のことはあまり考えてなかった。


先生が私の気持ちに応えてくれるなんて、これっぽっちも思ってなかったんだ。


だって、相手は “先生” で、私は “生徒” だから。



だけど……先生は応えてくれた──。


『付き合って下さい』って、言ってくれた──。


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