先生がいてくれるなら③【完】
遠くに船が通るのが見える。
とてもゆっくりとした動きで、でもそれは確実に私の視界を右から左へと移動して行く。
それが見えなくなるまでボーッと眺めるとさすがに本当に暑くなってきて、私はフェンスから離れて公園を後にした。
来た道を戻り、先ほど降りたバス停へとゆっくり歩みを進める。
ふと気になってサイレントモードにして鞄の中に入れたままの携帯を取り出すと、何件もの電話の着信とメールが……。
私がため息を吐くのとほぼ同時に、手の中の携帯の画面が着信を表す画面に切り替わる。
誰からのものか確認するまでも無い。
私はそのまますぐに、携帯の電源を落とした。
バス停に着く、その前に──既視感たっぷりの光景が目の前で繰り広げられていた。
バス停へと向かう足が思わず止まる。
先生の車が、バス停近くに止まっているのが見えたから……。
かなり不機嫌そうな顔をした先生が、携帯を手に、車の横に立っている。
「電源落とすこと無いだろう」
さっきの大量の着信とメールの差出人は、先生だ。
全て分かっていて電源を落としたのに、まさかここにいるなんて……。
「立花、話がしたいんだ。頼む」
先生が私に頼み事なんて。
付き合っていた頃だったなら、二つ返事で頷いただろうな。