先生がいてくれるなら③【完】
私から話すことは、特に無い。
高峰さんとの事を、光貴先生と教授からどんな風に聞いたかは分からないけれど、私は話す気は無い。
「お前に話さなきゃならない事がある。だから……」
私は心の中で小さくため息を吐き、先生の前まで足を進めた。
「私から話すことは無いですけど、先生の話を聞くだけなら」
私がそう言うと、先生は頷いて、助手席のドアを開けた。
私が車に乗り込むと、先生はそれを確認し、助手席のドアを閉めて自らも運転席へ乗り込む。
車の中は冷房が効いていて涼しい。
長い時間炎天下に立っていたから、ひんやりとした車の中の空気が気持ちいい。
私がシートベルトを締めたのを確認し、先生はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
「……何から話そうかな」
先生は、困ったような表情をして、少し目を細めた。
「高峰の事……もっと前に話しておくべきだった」
そう言葉にした先生は、悔しそうな、悲しそうな、複雑な表情だった。
私は、運転しながら言葉をぽつりぽつりと紡ぎ出す先生の横顔を、ただじっと見つめる。