先生がいてくれるなら③【完】
「前の学校の教え子だったって事は、もう知ってるんだよな?」
先生の問いかけに、私は頷く。
「俺が教師になって2年目、高峰が高校2年生。俺は高峰のクラスの教科担任だった。その頃俺には付き合ってる女性がいて……」
あまり話したくない内容なのだろう、先生はそこで言葉を一旦切った。
「……今とは違って、彼女がいる事は生徒達にも隠してなかった。その方が生徒に無駄な期待はさせないと思ってたから」
うん、それはそうだよね。
彼女がいる人に言い寄ろうなんて女の子は、よほど自分に自信がある子ぐらいだろう。
私だったら、先生に彼女がいるって知ったら、多分告白したりしないと思う。
──先生の話は高峰さんの口から語られたものと同じで、高峰さんの話を信用していなかったわけではないけど、それを裏付ける結果となって、なぜかちょっと安心した。
当時の先生は、“彼女と付き合ってる” と言っていても、特に大事にしている様子も無く、熱い関係では無い──そこが高峰さんは気に入らなかった。
熱を上げているのは女性の方だけで、だったらどうして自分じゃ駄目なのか。
高峰さんの不満はどんどん大きくなるばかりで、それがある日爆発する事になる。
彼女さんの素性を探り、家の前で待ち伏せしたり、嫌がらせを繰り返し──そして、精神的に追い詰められた先生の彼女さんは────自殺を図った……。
幸いそれは未遂に終わったらしいけど、先生はとても心を痛めただろう。