先生がいてくれるなら③【完】
「違ってたら言ってくれ。俺は、高峰に何かをされて、それを理由にお前があの別れ話をしたんだと思ってる。あれはお前の本心じゃ無かった、って。高峰のことが解決したのなら、あの別れ話はもう意味の無いことなんじゃないのか?」
私は無言を貫き通す。
話があると言ったのは、先生。
私は聞くだけだって、言ったよね?
「それとも……あれは、本心、だった……?」
先生の切なさを含んだ声が、私の耳に届く。
否定したい、だけど、……。
長い長い沈黙──私も、先生も、口を開かない……。
信号が青に変わり、先生は渋々私から視線を前へと戻し、車を走らせた。
「もう、以前のようには戻れないのか……?」
ポツリ、と先生が言葉を零す。
そう、戻れない。もうあの頃には。
「立花……」
先生の切なげな声と、車の走行音だけが聞こえる車内。
私は唇を噛みしめて、浮かびそうになる涙をぐっと堪える。